ショルダープレスまたはオーバーヘッドプレスは、三角筋を主働筋とする多関節エクササイズで、コアエクササイズまたは構造的(ストラクチュアル)エクササイズにも分類される重要エクササイズです。
一部では、ビッグ3のひとつベンチプレスよりも大事とも言われています。さらにショルダープレスは、スタートポジションによりフロントプレス(以下プレスはPと略す)とバックPに分類できますが、今回は、ショルダーPのメリット・デメリット、およびフロントPとバックPの比較考察記事になります。
ショルダープレスのメリット
- 多関節種目の割には、動作は比較的簡単である。
- 高重量を用いることができる。
- 競技動作に直結しやすい。
動作を比較的容易に習得できる
ショルダーPの動作自体は比較的簡単です。さらにバックPはスクワットと同じように担いだ状態から始めるので、より容易です。
一方、フロントPのスタートは、フロントスクワットの体制になるので、実は初期段階ではまあまあハードルが高いのです。このことより初心者はバックPから始めたほうがいいと思います。
高負荷を用いることができる。動作が実践的である。
多関節種目であり、かつ可動域もさほど大きくない(後述)ので高負荷を扱うことができます。筋肥大よりも最大筋力向上を、また実践的なプレス動作を求めるアスリートには、レイズよりもプレスの方が適していると思います。
ショルダープレスのデメリット
- 可動域が狭い。
- 痛めやすい(肩・肘・手首・腰等)。
- 三角筋後部はほぼ鍛えられない
可動域が狭い。
ショルダーPにおける肩関節の可動域を最大に取ると、オーバーストレッチになり傷害リスクが増大します。
通常、バックPでは耳の後ろあたりまでを可動域とするので、以外と仕事量は少なく、トレーニング効果(特に筋肥大)は下がります(物理的負荷は大きいので低くはないかと)。
一方、フロントPでは鎖骨付近を可動域をするので、バックPよりは可動域が拡いですが、山本義徳氏は、そのポジションもオーバーストレッチとし、アゴ辺りを勧めてします。その場合、傷害リスクは下がりますが、トレーニング効果は下がります。
スタート時には最大伸張位を取ることができず、またフィニッシュ付近ではフリーウエイトの弱点である負荷の抜けが起こるので、トレーニング効果の出る範囲は限られてしまいます。
痛めやすい(肩・肘・手首・腰等)
石井直方教授は著書で、フロントプレスよりもバックプレスを優先するよう書かれています。理由としては、フロントプレスの方が、腰椎伸展がより出てしまい、腰痛リスクが大きいことを上げています。
対処法としては、座位で行うことです。座位では腰椎伸展は抑えられるので、腰痛リスクは少し下がります。
一方、バックPにも肩リスクがあります。肩関節運動は「外転・外旋」になるので、いわゆる(前方)脱臼ポジションです。
脱臼経験のある人や肩関節が緩い人には、バックPは勧められません。NSCAでも肩関節不安定性(または弛緩性)がある人には、禁忌エクササイズとして指定されています。
フロントPは肩関節内旋位になるので、そのリスクが排除され、対処種目としても挙げられています。
プレス動作全体としては、インピンジメントの可能性があり、特に棘上筋を痛めるリスクは避けられません。肩を痛めやすい人は、ローテーターカフの強化やレイズをメインにすることも考慮に入れましょう。ただし、フォームを雑にではなく、丁寧に行えばインピンジメントのリスクはかなり下げることができます。
三角筋後部はほぼ鍛えられない
このことに関しては、下記記事を参照してください。
機能解剖学または運動学から観るショルダープレス
機能解剖学的または運動学的な整理をしましょう。ここでは、主要のアイソトニック収縮する筋群のみを扱います。姿勢支持筋をはじめとするアイソメトリック収縮する筋群は考慮しません。
肘関節は、両者ともに伸展となり、上腕三頭筋に関しては、さほど差は無いと考えられますので、ここでは割愛します。
肩関節に関しては、後方に担ぐバックPは外転となり三角筋中部を中心に鍛えられることになります。一方、フロントPは前方の鎖骨辺りから開始し、通常グリップもやや狭くなり、屈曲が強くなり、バックPよりも三角筋前部の関与が大きくなると思います。
フロントプレス
関節運動:肩関節屈曲と肘関節伸展、肩甲骨の挙上と上方回旋
主働筋:三角筋前部および中部(特に前部メイン)
協働筋:上腕三頭筋、僧帽筋上部、前鋸筋、肩甲挙筋
バックプレス
関節運動:肩関節屈曲と肘関節伸展、肩甲骨の上方回旋と挙上
主働筋:三角筋前部および中部(特に中部メイン)
協働筋:上腕三頭筋、僧帽筋(特に上部)、前鋸筋、肩甲挙筋
まとめ
ショルダーPには、幾つかデメリットはありますが、肩のメイン種目として疑いの余地が無いものであり、是非、導入していただきたい種目です。
また、フロントPとバックPのトレーニング効果に大きな差は無く、目的や傷害リスクを考慮して、選択すればいいと思います。
フロントプレスを用いる場合
- 三角筋前部をより鍛えたい
- 腰痛を持っていない
バックプレスを用いる場合
- 三角筋前中部をより鍛えたい
- 肩に不安定性がない
ショルダープレスのみでは、三角筋後部は鍛えられないので、リアサイドレイズは、是非ともプログラムに入れてください。
引用・参考
・筋肉まるわかり大辞典2, トレーニングメソッド@石井直方
・かっこいいカラダ(ボディメークを極める)@山本義徳
・筋トレ動き方・効かせ方パーフェクト事典@荒川裕志
・ストレングストレーニング&コンディショニング第4版@NSCA JAPAN