クリーンのキャッチやフロントスクワットにおいて、バーを指先で支えるパターンをしばしば見かける。ウエイトリフターでこのパターンの人はほとんどいないが、トレーナーの方がよくやっているイメージがある。このことに関する記載やガイドラインは中々見当たらず、正解はわからないが、私は否定派である。

否定派に至る背景と理由
背景
元々は、私も手関節の背屈の可動域が狭いので、肘を挙げる(屈曲)させるためにもキャッチ時には指先に移行していた(当然、スタートからセカンドプルまではしっかり握っている)。私のクイックリフトの師匠といえる方が、元リフターであり、傷害に繋がる(肩、肘、手首)から握った方が良いと言われてから、握るようにしていた。初期は苦労したが、それなりに可動域は出てくるもので、現在フォーム上の問題は無いと思われる。さらに、指先でキャッチしているときは、重量が上がってくると、それなりに痛みが出たが、握るようにしてからは痛み、傷害は皆無である。

握ったパターン。若干可動域は狭くなるが問題無いレベルで、手関節痛は皆無。
理由 手関節(手首)の過背屈
私が否定派である理由は、過背屈で手首を痛める可能性が高いことである。背屈の可動域は通常70°程度で、指先でキャッチすることで手関節の背屈の可動域は若干出やすい模様(80~90°弱)である。それに伴い、肩の屈曲も出やすくなるかもしれないが、重量が増えれば増えるほど、モーメントアームも長くなり、手首に痛みが出る可能性が高まる。
クリーンの場合は、手関節の背屈の可動域よりも肩屈曲の可動域が重要と捉えているので、無理やり、手関節背屈で肩の柔軟性を向上させるよりも肩関節自体の柔軟性を向上させることがより重要と考える。
理由というほどではないが、動作に無駄が多いように思える。スタートからセカンドプルまでは普通に握っているはずで、ここで指先に引っ掛けている人は皆無と思われる。キャッチの瞬間、指先に移行し、スタートポジションに戻すときに、また握り直す。また、クリーンからジャークやプッシュプレスに移行する際も然り。それであれば、握ったままで良いのではないかと思うし、その方が手首の負担は少ないはずである。
さらに、補足として、クリーンのキャッチを完成させるには少々時間がかかるので、その際に腰痛を発する可能性も無きにしも非ず。
代替エクササイズは?
指先でしか、キャッチができないような可動域であるなら、クリーンにこだわる必要は無い。ウエイトリフティングという競技であれば、クリーンのキャッチは必要であるが、それ以外のアスリート、トレーニーであれば、必ずしも必要では無い。
スナッチ
スナッチは、クリーンよりも難易度が高いが、手首はニュートラルポジションになるので(前腕上に位置する)クリーンよりは痛める可能性は低い(肩の問題はまた別)。
プルおよびハイプル
さらにシンプルにするのであれば、クリーンプルやクリーンハイプル(セカンドプル)でいいと思う。
トリプル(フル)エクステンション(解剖学的には正しい言葉では無いが)からのトリプルフレクションという、加速局面から減速局面という切り返しのトレーニングとして重要な意味も持つが(神経系の改善も期待できる)、クイックリフト最大の目的はトリプル(フル)エクステンション(加速局面および股関節・膝関節伸展)と捉えているので、(ハイ)プルができるようになれば十分効果は上げられる(プルでも切り返しはできるし、重量もより高重量にできるので、姿勢筋群の負荷も上がる)。ウエイトトレーニングに時間をかけられないアスリートにはお薦めである。
痛みに関するリスク管理
そもそもウエイトトレーニングは、筋や関節を鍛えるが、痛みを我慢するものではないはず。痛みがあるということは、通常エラーがあるか、構造上無理をしているということになる。
指先云々言うよりも、キャッチで肩の上にバーベルを降ろせる技術がより重要かもしれない。そうすることによりモーメントアームも最小になり障害リスクはかなり減少するはず。それでも指先よりは握った方がさらにリスクは軽減すると思うが。
指導に関する提案と実際
少なくとも私自身は指先ではキャッチしないし、指導もしない。特に、現在見ている水泳とボクシングの選手には絶対に指導しない。
スイマーは手首の可動域は持っているが、言い換えると弛緩性が高いので、下手に指先でキャッチすると通常の人よりも痛めやすい。その痛みから感覚が狂う可能性が高く、スイム練習に影響が出てしまうかもしれない。そのため、競技特性も踏まえ、スナッチまたはスナッチプルで対応することが多い。
ボクシングの場合は、手首は柔軟性(Flexibility)よりも安定性(Stability)の方が重要なので、クリーンプルを多用する(トレーニング時間も限られているので)。当然、手首を痛めるということは競技特性上、致命的である。