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【生理学】持久力に重要な作業閾値の意味を理解する

2022年10月27日

持久力を評価する基準に作業閾値というものがあります。

聞きなれない(専門)用語ですが、持久力に関して非常に重要な用語です。

今回は、この作業閾値に関するまとめになります。作業閾値を理解して、持久力を向上させましょう。

閾値(いきち)とは?

閾値とは、weblio辞書によると、「数値的な境目、境界線となる値を意味する表現である。反応(状態の変化)を対象にもたらす最小の値」とあり、「しきいち」ともいわれ、英語で「Threshold」と言います。イニシャルの「T」は非常に重要なので覚えてください。

作業閾値とは?

一方、作業とは「仕事」または「仕事をすること」とあるので、作業閾値は「ある仕事をしたときの数値的な境界線」となるでしょうか(作業閾値として調べると具体的な説明は見つかりませんでした)。

作業閾値までを含めて「ThreShold」でいいと思います。


作業閾値の分類

作業閾値は大きく4つに分類されると思います。

  1. 乳酸性作業閾値(Lactate Threshold)
  2. 換気性作業閾値(Ventilation Threshold)
  3. 無酸素性作業閾値(Anerobic Threshold)
  4. 有酸素性作業閾値(Aerobic Threshold)

乳酸性作業閾値(Lactate Threshold)

NSCA Japanによると、「運動中に血中乳酸濃度が安静時のレベルを超えて急激に上昇する点」と説明されています。

要するに、運動強度を上げていくと、酸素がより必要となります。酸素不足から乳酸産生量が一気に増える運動強度です。結果、乳酸の過剰増加により、一時的に動きに支障をきたすことになります。

英語で「Lactate Threshold」というので、略して「LT」と言います。

ボクシングだと、連打等で腕が上がらなくなったり、手数が止まることですね。

筋持久力の指標になり、通常は2mmol/lあたりと言われていますが、トレーニングでこの数値を上げることができます。持久力のトレーニングの目的の一つは、これ(LT向上)になります。

一般的にLTは、

  • 一般の人で「50~70%VO2max」
  • アスリート(特に持久系)では「70~90%VO2max」

と言わています。

また、レベルの高いアスリートの場合、LTレベルでは耐えられるので、血中乳酸濃度4mmol/lをOBLA(Onset of Blood Lactate Accumulation, 乳酸蓄積開始点) とし、そのレベルでトレーニングする場合が多いです。

LTを第1乳酸蓄積増加点、OBLAを第2乳酸蓄積増加点とする考え方も有ります。通常(一般の人)は、OBLAでは運動の継続はできません。

写真出典:ストレングス&コンディショニングⅠ(理論編)@NSCA Japan

グラフは、横軸が運動強度(または酸素摂取量:ml/kg/min)、縦軸が血中乳酸濃度(mmol/l)です。

換気性作業閾値(Ventilation Threshold)

酸素不足が始まる強度から酸素摂取率は低下し始め呼吸数が増加する運動強度(NSCA Japan)のことです。

英語で「Ventilation Threshold」とうので、略して「VT」と言います。

全身持久力の指標となりますが、その強度は「LT」と近い強度となります。

LT ≒ VT

初期段階では、「LT」よりも「VT」の方が、持久力においての制限因子になると思います(心拍数や呼吸数の増加)。

私自身も現役時代は、この心拍増加や呼吸増加が一番きつかったです。

写真出典:ストレングス&コンディショニングⅠ(理論編)@NSCA Japan

グラフは、横軸が運動強度(または酸素摂取量:ml/kg/min)、縦軸が換気量(ml/分)です。

ちなみに、換気が厳しくなり、呼吸数が増加する理由は、酸素不足と言われていますが、二酸化炭素(CO2)の増加によるものが主因の一つと考えられています。

二酸化炭素の増加は、呼吸器系を刺激するようです。通常、肺の中の空気に占めるCO2の割合4~5%程度であるが、運動により5%以上になると、CO2排除のために呼吸が荒くなるようです。それを緩和するためにも酸素摂取は重要です。

無酸素性作業閾値(Anerobic Threshold)

NSCA Japanによると、「運動強度を徐々に増加させていくと、無酸素性の代謝亢進により乳酸が多量に生成され、それに伴って血中pHの酸性化が進み、ガス交換の変化が著しく生じる運動強度、あるいは酸素摂取量のレベル」と説明があります。

英語で「Anerobic Threshold」と言うので、略して「AT」と言います。

この説明から「LT」と「VT」と合わせたものとなると思いますが、明確な数字が出ない曖昧な指標です。

専門家であれば、「LT」か「VT」で考えたほうがいいと思います。

有酸素性作業閾値(Aerobic Threshold)

AT未満の運動強度のことになります。

英語で「Aerobic Threshold」と言うので、略して「AeT」と言うこともあります。

AeT(AT以下の運動)では、酸素不足が生じないので、乳酸の連続的蓄積や呼吸数・心拍数増加が起きにくく、運動の継続が可能となります。

マラソンやランニングは、基本的には有酸素運動になるわけですが、途中で歩いたり、止まってしまう場合は、強度が上がり無酸素運動のレベル(閾値)になっているのかもしれません。

または、運動開始時に中枢神経が疲労を感じるので、その際に運動をやめるように命令を出します。その誘惑に負けないようにしましょう!

作業閾値(threshold)のまとめ(英和)

無酸素性作業閾値Anaerobic threshold (AT)
有酸素性作業閾値Aerobic threshold (AeT)
乳酸性作業閾値Lactate threshold (LT)
換気性作業閾値Ventilatory threshold (VT)
血中乳酸蓄積開始点Onset of Blood Lactate Accumulation (OBLA)

LTやVTを向上させるトレーニング

持久力を向上させる第一のトレーニングは、LTまたはVTを向上させることです。

それには、基本的には長距離走が重要です。30分~60分程度を継続して動けるようなトレーニングになります(基本的には、ラントレーニング)。

LTおよびVTが向上することになり、乳酸の蓄積および呼吸数の増加を防ぐことになり、疲れにくい身体を作ることができます。

「ローマは一日にして成らず」、地道にトレーニングに励みましょう。

まとめ

作業閾値の4つの分類

  1. 乳酸性作業閾値(LT)
  2. 換気性作業閾値(VT)
  3. 無酸素性作業閾値(AT)
  4. 有酸素性作業閾値(AeT)

LT、VT、ATは全く同じではあるが、近い数値なので

LT ≒ VT ≒ AT

と考えていいと思います。

AeTは、AT未満であるので、AeT < AT です。

持久力を向上させるには、まずLTやVTを向上させる必要があります。

出典、引用、参考
・ストレングストレーニング&コンディショニング第4版@NSCA Japan
・ダニエルズのランニングフォーラム第3版@ベースボールマガジン社
・トレーニング指導者テキスト理論編@JATI(大修館書店)
・ストレングス&コンディショニングⅠ(理論編)@NSCA Japan

イラストは、イラストACの北丸かんなさん

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