硬くなりやすい筋肉に腸腰筋や大腿直筋等、股関節屈曲筋群があります。
これらの筋肉が硬くなると、または継続的な過緊張状態になると、腰痛の原因になることもあります。今回は、股関節屈曲筋群のストレッチの是非について検証していきましょう。
股関節屈曲筋群のストレッチの大前提
股関節屈曲筋群は、
- 腸腰筋
- 大腿直筋
- 大腿筋膜張筋
- 縫工筋
辺りを押さえておくといいと思います。
これらの筋群をストレッチするには、「股関節伸展」さえすれば、大方間違いではありません。むしろ、フィットネス愛好家やアスリートがセルフで行うのであれば、これで十分かもしれません。
大腿四頭筋(大腿直筋)の機能解剖学の記事はこちらを参照してください。
腸腰筋の機能解剖学の記事はこちらを参照してください。
腸腰筋と大腿直筋の使い分け
今回は、さらに深堀をし、股関節屈曲筋群のツートップである腸腰筋と大腿直筋のストレッチの使い分けについて考えていきましょう。
腸腰筋の機能は、「股関節屈曲」と「股関節外旋」
大腿直筋の機能は、「股関節屈曲」と「膝関節伸展」です。
単純に考えれば、腸腰筋は「股関節伸展と内旋」、大腿直筋は「股関節伸展」と「股関節屈曲」すればいいということになります。
腸腰筋の股関節外旋の機能は、一旦置いといて、股関節屈曲と膝関節の位置について考えていきたいと思います。
膝伸展位における股関節伸展(ストレッチ)
繰り返しになりますが、腸腰筋は股関節のみに作用する単関節筋であり、一方大腿直筋は股関節と膝関節に関与する二関節筋です。
膝関節伸展位による股関節伸展のストレッチでは、
腸腰筋は、膝関節の位置には関係なく(屈曲位であろうと伸展位であろうと )、最大伸張されます。大腿直筋は、膝伸展位なので、その付近は短縮しています。
言い換えると、膝伸展位における股関節伸展(ストレッチ)は、腸腰筋は最大伸張されますが、大腿直筋は最大伸張されていないことになります。
写真1. 膝伸展位による股関節伸展(赤:腸腰筋(最大伸張), 青:大腿直筋(遠位短縮)
ここで、十分な可動域が取れていない場合の制限因子*は、腸腰筋となります。言い換えると、膝伸展位による股関節伸展は、腸腰筋のためのストレッチです。
*ここでの制限因子とは、正常な可動域が取れない直接の原因となっている筋肉のことで、言い換えると柔軟性の無い硬い筋肉(関節可動域を阻害する筋肉)となります。
関節可動域に関する記事はこちらを参照してください。
膝関節屈曲位における股関節伸展(ストレッチ)
膝関節屈曲位による股関節伸展のストレッチでは、
腸腰筋は、膝関節の位置には関与しないので、最大伸張しようとします。
大腿直筋も、膝は屈曲位の場合、最大伸張されます。
写真2. 膝関節伸展位による股関節伸展(赤:腸腰筋(最大伸張), 青:大腿直筋(最大伸張)
膝屈曲位における股関節伸展は、腸腰筋および大腿直筋ともに理論上は最大伸張されることになります。
ここで、十分な可動域が取れていない場合の制限因子は、腸腰筋または大腿直筋(もしくは両方)です。
どちらのストレッチが正解なのか?どちらも正解
股関節屈曲筋群のストレッチは、膝伸展位では「腸腰筋」メインのストレッチとなり、膝屈曲位では「腸腰筋」「大腿直筋」の両方のストレッチとなるので、膝屈曲位を行っていれば良さそうですが、実際にはそうはいきません。
その理由として、以下の2つが考えられます。
- 腸腰筋または大腿直筋のいずれかに十分な柔軟性が無い場合、もう一方の筋肉も伸張されにくい状況になっていると考えられます(十分なストレッチ効果が得られない)。
- もう一つは、股関節屈曲位による股関節伸展ストレッチでは、ハムストリングが最大収縮位(過収縮)となり、痙攣を起こしやすくなります。運動経験の少ない人や朝早い段階では、特に起こりやすいでしょう。
写真3. ハムストリングの過収縮状態(筋痙攣の可能性)
できれば、股関節屈曲筋群に関しては、この2つのストレッチを併用した方が良さそうです。
どちらを先に行うべきか?膝伸展位が先
順番に関しては、絶対ということでは無いでしょうが、個人的には
- 先に膝伸展位のストレッチ
- 次に膝屈曲位のストレッチ
です。
膝伸展位のストレッチは、「腸腰筋」にターゲットを絞ることができるので、まずしっかりと「腸腰筋」を最大伸張することができます(十分な可動域が出ていなければ、腸腰筋に柔軟性が無いのでしょう)。
そして「腸腰筋」が伸張された状態で、膝屈曲位のストレッチをすれば「大腿直筋」に伸張をかけられます。この状態で可動域が狭くなれば、「大腿直筋」に柔軟性が無いと判断できると思います。
その他の注意点
股関節屈曲筋群のストレッチで、最も重要なことは「股関節伸展」をすることです。
そして、さらにそれを膝伸展位と膝屈曲位で行うことにより「腸腰筋」と「大腿直筋」に差別化することが可能になります。
さらに、これらの筋肉は「骨盤前傾」の作用を持つ筋群なので、「骨盤後傾」することにより、相反作用が起こりストレッチ感が増します。骨盤後傾筋である「大殿筋」や「ハムストリング」を収縮することで効果を上げることができます(簡単に言えば、臀部に力を入れることです)。
さらに、腸腰筋に関しては、腸骨筋と大腰筋では筋の走行が若干異なるので、筋線維に沿ったポジションを取ることで、より差別化が図れるかもしれません。
脚を真っすぐ後方に伸展されれば「腸骨筋」、やや外転位で伸展すれば「大腰筋」がターゲットになります。そして、股関節内旋位を取れば、より効果が上がると考えられます。
時間がある場合は、色々と試してみてください。
ここまで述べてきたすべてのストレッチは、大腿筋膜張筋や縫工筋にも有効ですが、よりターゲットを絞る場合は、機能解剖学を見直してください。機能の反対の動きがストレッチです(折を見て、記事にしたいと思います)。
まとめ
股関節屈曲筋群(特に腸腰筋と大腿直筋)のストレッチは
- 股関節伸展を行う(最重要)
- さらに膝伸展位と膝屈曲位に分けて行う。
- 膝伸展位では、腸腰筋メイン
- 膝屈曲位では、大腿直筋のストレッチを加えることになる。
- 骨盤後傾にすることにより、よりストレッチ感が増す。
- 腸腰筋に関しては、筋の走行を考慮して脚のポジションを決める。
- 0°伸展位で腸骨筋メイン
- 30°外転位で大腰筋メイン
- 大腿筋膜張筋や縫工筋にも効果があるが、股関節伸展以外の要素が加わる。
ストレッチを勉強するには、ストレッチのHow to本を読むのではなく、機能解剖学のテキストを読み込むことをお勧めします。
ストレッチ本の図や写真から形だけを覚えても応用が利きません。機能解剖学の理解を深めると、ストレッチ本に載っていないものにも対応することができます。
力の掛け方(強さ等)は、経験値を上げていくしか方法はありません。実践するときには、弱めから入り、お客様の反応をよく見ましょう。
日本人は、我慢強く、否定することも少ないので、言葉よりも表情や筋肉の反応をしっかり見極めましょう。
・身体運動の機能解剖(改訂版)@Thompson, Floyd, 監訳中村千秋
・筋肉のしくみ・はたらきパーフェクト事典@荒川裕志
・アスリートのための解剖学@大山圭吾
・機能解剖学的触診技術(下肢・体幹)@林典雄
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