単一筋(複合筋としては、大腿四頭筋)としては、人体最大(体積864㎤*)にして最強の大殿筋。股関節伸展筋の主要筋のひとつとして重要ですが、日常生活だけでは、中々鍛えにくい筋肉でもあります。
*筋体積は、37歳男性、183cm、91kgの死体解剖のデータです。それなりに大きい(おそらく)欧米人なので、日本人はもう少し小さいと思います。
出典:Friederich JA and Brand RA, Muscle fiber architecture in the human limb, J Biomech, 筋肉のしくみ・はたらきパーフェクト事典より
また、大きいがために、運動も伸展だけでなく、部位によって、多少違いがあるようです。
今回は、私の所有する5つのテキストのみになりますが、大殿筋の起始・停止・機能をすべて確認・記載し、比較検討します。そしてエクササイズのヒントを付け加えたいと思います。
大殿筋の起始と停止、および機能(股関節のみの単関節筋)
復習となりますが、
起始は「筋肉の付着部のうち、近位側の付着部またはあまり動かない付着部」
停止は「筋肉の付着部のうち、遠位側の付着部または大きく可動する付着部」
と定義されます。とはいうものの、起始・停止というよりも筋肉の2つの付着点として押さえて問題ありません。下記の節にまとめました。
大殿筋は、骨盤(腸骨・坐骨・仙骨・尾骨)の後面から大腿骨に付着していることが重要なポイントです。ゆえに、股関節を動かす筋肉であり、その機能・作用は、矢状面では伸展、水平面(回旋)では(後面付着と)筋線維の走行から外旋ということがわかります。
しかし、トレーナーであればそれだけでは不十分です。基本的に関節運動は、三面三軸(矢状面・前額面・水平面)で考える必要があります。
三面三軸に関する記事はこちら
大殿筋(起始)は、骨盤後面全体に広く付着しています。大転子または股関節(寛骨臼)を基準に関節(前額)軸を取り、その上部を上方線維、下部を下方線維として考える必要があります。
少し考えなくてはならないのが、前額面での機能(内転・外転)です。
上方線維は、伸展と共に、前額面においては当然ながら上方に動きたがります。ということで、上方線維の機能は、「伸展・外旋・外転」となります。
一方、下方線維はその逆で下方に動きたがることから、「伸展・外旋・内転」ということになります。
これらを踏まえて、各テキストを確認していきましょう。
身体運動の機能解剖 改訂版(2006)
起始:腸骨稜の後方1/4、仙骨と尾骨の腸骨近くの後面、腰背筋膜
停止:大腿骨大転子外側面、腸脛靭帯後面
機能:伸展、外旋、内転の補助(下部線維)
私の持ってるのは、改訂版第10印刷で2006年6月30日発行です。最新は17印刷(2014年)らしいので、記載は変わっているかもしれません(大殿筋に関してはおそらくは変わっていないでしょう)。
機能はなぜか、下部線維しか記載されていません。その説明もされていません。
筋肉のしくみ・はたらきパーフェクト事典(2013)
起始
浅部:腸骨稜、上後腸骨棘(PSIS)、仙骨、尾骨
深部:腸骨翼*の殿筋面**、仙結節靭帯
停止
上側:大腿筋膜の外側部で腸脛靭帯に移行
下側:大腿骨殿筋粗面***
機能:伸展、外旋、外転(上側)、内転(下側)
*腸骨翼:腸骨体の上方で後方に広がっている部分。
**殿筋面:殿筋群が付着する腸骨外側面。
***殿筋粗面:外側唇の外側上方に広がる粗い面。
・骨と関節のしくみ・はたらきパーフェクト事典@岡田隆
このテキストでは、上部・下部の機能に関して詳細は書かれていませんが、荒川先生のトレーニング系の著書やコラムではよく記載されています(一例:トレーニングマガジンvol32. 豪脚入門P18,19等)。是非、お読みください。
機能解剖学的触診技術 下肢・体幹編(2007)
起始
浅部:腸骨稜、上後腸骨棘(PSIS)、腰背筋膜、仙骨、尾骨
深部:腸骨外側(後殿筋線後方)、仙結節靭帯、中殿筋の筋腹
停止
浅部:腸脛靭帯
深部:大腿骨殿筋粗面
機能:伸展、外旋、外転(上部)、内転(下部)
このテキストも改訂版が出ているので、記載は若干変わっているかもしれません(大殿筋に関しては、おそらく変わっていません)。
また、このテキストには、上部/下部線維に関する機能の違いについての説明がイラスト付きで説明されています(上記、写真はそのイラストを基に作成)。
肉単(2004)
起始:腸骨(後殿筋線)、仙骨、尾骨(後面)、仙結節靭帯
停止:腸脛靭帯、大腿骨殿筋粗面
機能:伸展(特に屈曲位からの)、外旋
アスリートのための解剖学(2020)
起始:骨盤後面
停止:大腿骨近位後面
機能:伸展、外旋
概論的に説明されているのみなので詳細の記載は無し、続編に期待します。
骨盤傾斜(前傾・後傾)について
大殿筋の起始は骨盤後面を全体的に覆い、停止は大腿骨(近位)になるので、骨盤後傾の作用はあると考えられます。
大殿筋の左右差により、骨盤というよりも脊柱の弯曲(前弯・後弯)により影響が有りそうです。通常、大殿筋はトレーニングしていないと(日常生活のみでは)、発達しないので弱化しやすい筋肉です。弱化すると、骨盤が前傾位になり、キネマティックチェーン(連鎖・連動)により、腰椎は前弯し伸展型(反り腰)の腰痛になる可能性が高まります。
大殿筋のトレーニング
大殿筋のトレーニングとなると、スクワットやデッドリフトを連想すると思います。全く以って正解ですが、通常のスクワットだと、挙上時に股関節内転が入るので、厳密に言うと下部線維が重点的に鍛えられます。よくよく思い出してみると、スクワット後は、大腿四頭筋と臀部の下部(脚との付け根)あたりに筋肉痛が出るはずです。
上部線維を鍛えるためには、ブルガリアンスクワットやスプリットスクワット等の片脚スクワットや(フォワード・バック)ランジがお薦めのエクササイズです。
片脚のスクワットやランジは、外転(この動きは小さいので、実際には分かりにくい)を伴う伸展運動なので、両脚でのスクワットでは鍛えきれない大殿筋上部線維(および中殿筋)を鍛えることができる優れたエクササイズです。
臀部が流れないように赤線方向に力を加えることになります。これが外転の作用です。*臀部が流れるということは、股関節は内転しています。
初心者には、重量を用いたスクワットやデッドリフトはきついので、自重や軽量から行うといいと思います。また、心身ともにストレスが少なく、意識しやすいヒップリフト(スラスト)はお勧めです。
まとめ(起始・停止・機能)
起始・停止、および機能は、以下を押さえておくといいでしょう。
起始・停止に関しては、覚えるしかないですが、機能は暗記するのではなく、起始と停止が近づくとどのような運動になるかをイメージしましょう。
暗記するのは「起始と停止」、機能・作用は「(関節運動のメカニズムを)理解」しましょう。
大殿筋
起始:骨盤後面(腸骨・坐骨・仙骨・尾骨)、腰背筋膜
停止:大腿筋膜張筋(腸脛靭帯)、大転子後外面
機能:伸展(全体)、外旋(全体)、上部線維(外転)、下部線維(内転)
大殿筋のトレーニング(エクササイズ)
- 基本(全体・下部線維):両脚でのスクワット・デッドリフト
- 上部線維:片脚スクワット(ブルガリアンスクワット等)、(フォワード/バック)ランジ
- 初心者:ヒップリフト
引用文献:上記で紹介したテキストすべて
・骨と関節のしくみ・はたらきパーフェクト事典@岡田隆
・トレーニングマガジンVol32. P18,19@荒川裕志
・筋トレまるわかり大辞典@谷本道哉
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