前回は、ベンチプレスとプッシュアップを比較しましたが、今回はプッシュアップの手幅による効果の違いを考えましょう。JATI EXPRESS Vol82「トレーニングの複眼的探求」のデータを基に紐解いていきたいと思います。
プッシュアップの手幅の違いによる筋電図活動比較
この研究では、プッシュアップの手幅3種類および位置を変えた計5種類の筋電図活動の比較をしています。
手幅に関しては、「両肩峰幅をスタンダード・ミドル」、「スタンダードの2倍の手幅をワイド」、「ナローは胸骨下で両手の人差し指と親指の指先が触れる程度」とありますが、前回の45cm(Narrow), 67cm(Standard), 89cm(Wide)を目安にするといいと思います。
さらに、手幅はスタンダードの幅で、「頭部方向に20cmの位置をフォワードプッシュアップ」、「脚部方向に20cmの位置をバックワードプッシュアップ」としています。
- ナロウプッシュアップ(NPU)
- ミドル(スタンダード)プッシュアップ(MPU)
- ワイドプッシュアップ(WPU)
- フォワードプッシュアップ(FPU)
- バックワードプッシュアップ(BPU)
今回は、手幅のみ(1~3のみ)を考えていきたいと思います。
比較した筋肉は以下の表1. の12種類。コラムでは、各筋肉の挙上時(コンセントリック収縮)、下降時(エキセントリック)、その平均値のグラフを記載していますが、ここでは表1. に各筋肉の挙上時の値の筋電図出力(mV)を記載します。
表1. プッシュアップの手幅の違いよる各筋肉の挙上時の値(mV)
ナロウプッシュアップ | ミドルプッシュアップ | ワイドプッシュアップ | |
大胸筋(鎖骨部) | 0.7 | 0.55 | 0.4 |
大胸筋(胸肋部) | 0.45 | 0.4 | 0.4 |
三角筋前部 | 0.8 | 0.85 | 0.9 |
三頭筋(外側頭) | 0.55 | 0.55 | 0.5 |
三頭筋(長頭) | 0.95 | 0.55 | 0.4 |
前鋸筋 | 0.6 | 0.65 | 0.8 |
広背筋 | 0.1 | 0.08 | 0.08 |
僧帽筋中部 | 0.25 | 0.25 | 0.25 |
二頭筋 | 0.1 | 0.1 | 0.1 |
腹直筋 | 0.1 | 0.05 | 0.1 |
外腹斜筋 | 0.15 | 0.1 | 0.1 |
脊柱起立筋群 | 0.02 | 0.02 | 0.02 |
引用:JATI EXPRESS Vol82のコラム「トレーニングの複眼的探求」のグラフからの推測データ
*正確な数値は記載されてなく、同じ数値のものは一致しているわけではありません。差がかなり少ないものは、同値にしています。
結果
- 筋電図活動の高い筋肉は、大胸筋・三角筋前部・上腕三頭筋・前鋸筋
- 筋電図活動の低い筋肉は、広背筋(大胸筋の1/4以下)・上腕二頭筋(三頭筋の1/5以下)
- 大胸筋は、鎖骨部(上部)および胸肋部(中部)ともに、ナロープッシュアップが最もが効果が高い。
- 三角筋前部は、手幅による活動の差は少ない。
- 三頭筋外側頭は、手幅による活動の差は少ない。
- 三頭筋長頭は、ナローが一番高く、ワイドではナローの半分以下である。
- 前鋸筋は、ばらつきはあるが、すべての手幅で活動は大きい。
- 僧帽筋中部は、背面の筋肉としては最大値である。
- 体幹支持筋は、脊柱起立筋に比べ腹筋群の関与が大きく、手幅による差は少ない。
なお、コラムには、以下の2点の記載がありました。参考になるデータだと思います。
- 肘関節が、160°屈曲位(180°を完全伸展とする)では各筋肉にかかる負荷が比較的小さく、50°屈曲位あたりまでが大きくなる。
- 肘関節が、完全伸展位では体重の約70%が、90°屈曲位では体重の約75%の負荷がかかる。
考察
- プッシュアップにおいて、大胸筋および三角筋前部の主腰筋群を鍛えるのは、ナロウプッシュアップが最も効果が高い可能性がある。
- プッシュアップにおける最大(第一)制限因子は三頭筋なので、大胸筋および三角筋前部を鍛えるためにはミドルベンチプレスの方が効果が高い可能性も考えられる。
- ベンチプレスの場合、肩甲骨は固定するが(リスク回避)、プッシュアップの場合、必ずしも固定する必要は無く(負荷が小さいため)、フィニッシュで肩甲骨外転をし、前鋸筋や小胸筋の仕事や可動域を増やすことができる。
- 広背筋は、姿勢の維持に関与している(脊柱伸展・肩甲骨内転)可能性が高い(アイソメトリック筋収縮)。
- 僧帽筋中部も、姿勢の維持に関与している(脊柱伸展・肩甲骨内転)可能性が高いが、肩甲骨の回旋もしていることも考えられる。
- 二頭筋は、ワイドであっても関与は少なく、特に考える必要は無い。
- プッシュアップで姿勢を保持しているのは、腹筋であって背筋群では無い。
まとめ
わかってはいることですが、改めてプッシュアップの主働筋および協働筋は、
大胸筋・三角筋前部・三頭筋・前鋸筋として問題無いようです。
また、姿勢筋として、腹筋群以外にも広背筋や僧帽筋を考慮してもいいのかもしれません。
筋活動量からすると、ナロウプッシュアップが最も優れていますが、三頭筋の関与が大きいので、大胸筋や三角筋前部を追い込めるとは限りません。目的によっては、ミドルプッシュアップが優れているとも考えられます。
大胸筋と三角筋前部にフォーカスしたいのであればミドルを、三頭も含めて総合的にトレーニングしたいのであればナロウを採用してもいいかもしれません(ベンチと同じですね)。
前回の記事にも記載しましたが、プッシュアップはCKCであり自身の身体を動かし、さらに体幹(isometric)を強化できる捨てがたいエクササイズです。
筋肥大や最大筋力目的であれば、ベンチプレスに劣ると言わざるを得ないですが、高負荷や追い込みのベンチプレスは頻度をこなすことができません。
週1回ベンチプレスの高負荷または追い込みのトレーニングをし、その他1~2回/週のプッシュアップを組み込めば、上半身前面に関しては、死角のないトレーニング(筋量・最大筋力・関節運動等)になる可能性が高いのではないでしょうか(特にアスリートにとっては)。
なお、この研究は、中級以上(1年以上のトレーニング経験者)のトレーニー成人(大学生)男性8名の結果なので、すべての人に当てはまるとは限りません。いち参考データとして、トレーニングに活用してください。
・JATI EXPRESS Vol80, 82 トレーニングの複眼的探求@佐野村学
・筋トレエクササイズ事典@有賀誠司
・筋肉まるわかり大辞典1@石井直方
・筋トレまるわかり大辞典@谷本道哉
・筋トレ動き方・効かせ方パーフェクト事典@荒川裕志