ウエイトリフティングは、スナッチおよびクリーン&ジャークの挙上重量を競う競技であり、
クイックリフトは、クリーンやスナッチを中心としたウエイトリフティング関連種目のトレーニングの総称です。
その効果からウエイトリフター以外にも多くの競技アスリートが実践しています。
今回は、クイックリフト導入時および初期時に起こりやすいエラーについてのまとめ、解説です。
第1回目(全3回予定)は、クイックリフトの最重要局面(セカンドプル・フルエクステンション)を司どる(クリーン/スナッチ)プル・ハイプルです。
ウエイトリフティングとクイックリフトに関する記事はこちらを参照して下さい。
クイックリフト(プル・ハイプル)の局面
プル・ハイプルにおける局面は、
- ファーストプル
- (トランジション, スクープ)
- セカンドプル
- フィニッシュ
の3~4局面となります。( )は局面と数えない人も多い。
プル・ハイプルのメリット・デメリットに関する記事はこちらを参照して下さい。
ファーストプルで起こりやすいエラー
ファーストプルは、スタート(ここでは床または脛)から膝までの局面を指し、デッドリフトの最初(床)から途中(膝)までの局面と同じとなります。
このファーストプルで起こりやすいエラーは以下の2つでしょうか。
- そもそもスタートポジションが取れない
- 初動作から腕の引きに頼る
そもそもスタートポジションが取れない
これは、クイックリフトを導入する以前の問題になるかもしれません。
現在は無くなってしまいましたが、NSCAの実技検定(レベル1)でのクリーン(スナッチは行いません。検定員のみの試験でした)の最重要項目にこの「スタートポジション」がありました。
その他の項目が合格点に達していてもスタートポジションが適正でない場合、即不合格だったはずです。
確かにスタートポジションが取れていない人が、クイックリフトでの効果を出せるとは思いません。
正しいスタートポジション(姿勢)が取れない場合(骨盤前傾位、肩甲骨内転位等)、スクワットやデッドリフトでの正しい姿勢を完成させる必要があります。さらにそれができない場合は、RDLやベントオーバーロウ等が事前に必要となります。
スタートポジションは、前提条件となります。
初動作から上半身(特に上腕)の引きに頼る
特に(上半身の)力自慢の男性に多いエラーかもしれません。
クイックリフトは、よく引くエクササイズと考えられていますが、あくまでも引くのは一部の局面(上半身の姿勢維持等)で、初動作においては、地面をしっかり押すことが重要です。
まずはスクワット、そしてデッドリフトで押す感覚を養うことが必須となります。
しかし、上半身の方が扱いやすいので、初期段階では腕力に頼りがちになります。
上半身は、背中の筋肉(僧帽筋・菱形筋等)で姿勢維持(肩甲骨内転位)に注力し、その他腕力等は脱力するのが理想です。
トランジション・スクープ・セカンドプル
トランジションまたはスクープは、膝を抜ける瞬間と言ったところでしょうか、ファーストプルとセカンドプルの境になる局面です。
その後、フルエクステンションのセカンドプルとなりますが、トランジション(スクープ)を込みでセカンドプルと言っても間違えではありません。
股関節伸展、膝関節伸展、足関節底屈(フル/トリプルエクステンション*)からシュラッグ、腕の引付けの局面で、クイックリフトの肝となる最重要局面(パワーや力積が最大となる)です。
セカンドプルで起こりやすいエラーは
- 軌道のエラー
- フルエクステンションしていない
- 肘と肩の関係
- タイミングのエラー
軌道のエラー
軌道の基本はストレートアップで、下から上に一直線の最短距離のイメージです。
軽量時にはさほど問題になりませんが、重量が上がれば上がるほど重要になります。バーと身体が離れると、モーメントアームが長くなり、より大きな力が必要となります。
バーを身体から離さないということが重要で、背中の筋群で引きつけておく必要があります(これがクイックリフトにおける引きです)。
身体からバーが離れすぎると非効率な運動(クイックリフト)になります。上記の腕力に頼るフォームの延長に当たるかもしれません。
バーはフルエクステンション完了まで、常に身体に触れていていいと思います。
フルエクステンションしていない
初期段階では、フルエクステンションが不十分なことが多いです。しかしそれでは最大のパワーを出すことはできません。
上記の腕力に頼ったり、軌道が悪いとフルエクステンションも不十分になりがちです。不十分なエクステンション(膝・股関節)では、クイックリフトとは言えません。フルエクステンションこそがクイックリフト最大の目的となるはずです。
最大努力の垂直跳びやクリーンプルを徹底的に行いましょう。
膝・股関節の伸展が不十分→効果は半減
写真程度の膝・股関節伸展(+足関節底屈)は必要
肩と肘の関係
これも起こりやすいエラーです。ハイプルではバーが高ければ高いほど良いという勘違いからくるものだと思います。
ハイプルにおいて、肘の位置がバーよりも低くなることは無く、肘はバーよりも上に位置します。実際にはバーは胸骨程度まで上がっていれば十分です(クリーンの場合、さらに低い位置からキャッチに入る)。
これで十分ですが、近々差し替えます(あまり良い写真ではないため→バーはより低く、肘はより高くですかね)
バーと身体の距離が離れすぎていることによる運動の非効率性やさらには肘の傷害に繋がる可能性もあります。
タイミングの問題
初期段階というわけでは無く、よく見かけるタイプでは無いですが、最近指導させていただいたトレーナーさんがこのタイプでした。参考のために記載します。
さすがにトレーナーさんだけに姿勢等はしっかりしていましたが、フルエクステンションのタイミングが全くズレていました。
Youtubeで見よう見まねで練習したそうです。
フィニッシュで起こりやすいエラー
プルおよびハイプルでは、キャッチという概念が無いので、フィニッシュとなります。フィニッシュも問題はズバリ
- 姿勢の問題
でしょう。
→
フルエクステンション後、同じ軌道で元のポジションに戻りますが、その際に背中の緊張が解けてしまうことが多いようです。
戻る際の軌道で、バーと身体が離れてしまうと、腰椎の屈曲が出やすくなり、腰痛の原因にもなるので、十分に気を付けなければなりません。
姿勢に関しては、セット完了後まで緩むことは無いので、強い背中の筋力と筋持久力が必要となります。
→
プル・ハイプルのメリット・デメリットに関する記事はこちらを参照して下さい。
まとめ
クイックリフトのファーストプルおよびセカンドプル(ハイプル)までの過程で起こりやすいエラーは以下の6つ
- スタートポジションにおける姿勢のエラー
- 腕力に頼ってしまうエラー
- 軌道上のエラー
- フルエクステンションができていないエラー
- 肘の位置のエラー
- フィニッシュにおける姿勢のエラー
クイックリフトにおける肝はフルエクステンションですが、スタートポジションでの姿勢や軌道上のエラーが出てしまうと、今回説明したエラーに繋がりやすくなる可能性が高いです。
アスリートであれば、クイックリフトは是非導入・活用していただきたいですが、その前提となるスクワット・デッドリフト(RDL含む)・ロウイングを軽視してはなりません。基礎筋力を高めてからクイックリフトを導入してください。
また、最近ではYoutube等で独学で学ぶことも可能ですが、プロのトレーナーさんでもクイックリフトの初期段階では自己分析ができないエラーが起こります。
最小の時間で、最大の効果を出すためには、クイックリフトの指導できるパーソナルトレーナーやS&Cコーチの力が必要となります(少なくとも初期段階では)。
そしてS&Cにとっても腕の見せ所といったところでしょうか、私も含めて日々精進しなければならないですね!
引用・参考
・ストレングス&コンディショニング第4版@NSCA JAPAN
・トレーニング指導者テキスト実践編@JATI
・JATI EXPRESS VOL34, 35(クイックリフトでのフルエクステンション, クイックリフトでのダブルニーベント)
フィジックスコンディショニングジム
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