前回は腹直筋と腸腰筋、2つの筋肉を対比しましたが、それらを鍛えるエクササイズ、似て非なるクランチとシットアップのメカニズムと効果を考えましょう。
また、腰痛にはよく腹筋を鍛える必要があると言われますが、その是非についても述べています。
クランチとシットアップのメカニズムと効果
2つの腹筋(上体起こし)運動、クランチとシットアップ
クランチ
クランチは代表的な腹直筋のトレーニングでトランクカール(trunk curl, trunkは幹を表し、体幹のカール運動と言うこと)とも言います。メイン動作は「腰椎(広義に捉えれば脊椎)屈曲」です。
運動のポイントは、おへそ(L3またはL4)を支点にして、腰椎を屈曲し、上体自体は約30°まで上げることです。30°程度であれば腰椎屈曲のみで、股関節屈曲がほとんどなく、後述する腸腰筋が使用されません。
腰椎屈曲運動なので、主働筋は腹直筋となり、骨盤は後傾に向かいます。まとめると、
支点L3(へそ)⇒腰椎屈曲⇒主働筋:腹直筋⇒骨盤後傾
シットアップ
一方、シットアップの本来の初動作はクランチで、30°では動作を止めず、さらに股関節屈曲を伴い上体を起こします。しかし、この動作ができている人は少なく、ほとんど最初から股関節屈曲のみで上体を起こします(脊柱は伸展位で→背筋を伸ばした状態)。今回は、この一般的によく行われるこのエクササイズ(厳密には間違っている)をシットアップとしてクランチと対比します。
シットアップのメイン動作は「股関節屈曲」です。
運動のポイントは、股関節を支点にして、股関節を屈曲し、上体をほぼ床に対して90°まで上げることです。この運動は股関節屈曲になるので、主働筋は腸腰筋になります。腸腰筋が主働筋なので、骨盤は前傾に向かいます。まとめると、
支点股関節⇒股関節屈曲⇒主働筋:腸腰筋⇒骨盤前傾
学生の部活では、このタイプの腹筋運動が主流なので、腹筋群よりも股関節前部(腸腰筋や大腿直筋)が熱く痛くなったことがあるのではないでしょうか。
しかし、このシットアップをすると腹直筋が鍛えられないわけではありません。脊柱にも屈曲トルクが働くので腹直筋はアイソメトリック筋収縮で使用されています(関節トルクに関してもいつかまとまる予定です)。しかし、腸腰筋の作用よりは弱いでしょう。
腰痛の2タイプ
腰痛には2つのタイプがあります。
- 伸展型腰痛
- 屈曲型腰痛
骨盤の傾きが関係していることが多いわけです。
伸展型腰痛
伸展型腰痛は、基本的には骨盤前傾・腰椎前弯型で、
- 腸腰筋
- 大腿直筋
- 背筋群
の過緊張が原因の一つです。
屈曲型腰痛
一方、屈曲型腰痛は、基本的には骨盤後傾・腰椎後弯型で、
- 腹直筋
- 大殿筋
- ハムストリングス
の過緊張が原因の一つとなります。
腰痛と腹筋運動の関係性
腰痛には腹筋運動と言われますが、実際には腰痛のタイプと腹筋運動のタイプを使い分けなければなりません。
- 骨盤前傾位(腰椎前弯位・平背・反り腰)タイプには、クランチが有効
- 骨盤後傾位(腰椎後弯位・円背・猫背)タイプには、シットアップが有効
骨盤前傾位(腰椎前弯位・平背・反り腰)タイプには、クランチが有効
骨盤が前傾して腰痛が出る場合は、対処法として、骨盤を後傾させる必要があります。そのためには、エクササイズとしては腹直筋が主働筋のクランチが有効です。逆にこのタイプの人にシットアップを処方してしまうと、腰痛を助長する可能性があるので注意が必要です。
さらに言えば、クランチの前に腸腰筋のストレッチを施しておくと効果は上がると思います。
テーマからは外れますが、大殿筋やハムをターゲットにしたデッドリフト系やヒップリフト系も有効です。
骨盤後傾位(腰椎後弯位・円背・猫背)タイプには、シットアップが有効
骨盤が後傾して腰痛が出る場合は、対処法として、骨盤を前傾させる必要があります。そのためには、エクササイズとしては腸腰筋が主働筋のシットアップが有効です。理論上はクランチを処方してしまうと、腰痛を助長する可能性がありますが、クランチは必要だと思います(後日、まとめたいと思います)。
できれば、シットアップの前に腹直筋のストレッチを行うと効果はさらに上がると思います。
また、背筋群をターゲットにしたバックエクステンション(これもやり方には注意が必要)も有効です。
まとめ
代表的な腹筋運動のクランチとシットアップは、似て非なるエクササイズで、そのメカニズムおよび効果は全く違うものとなります。キーワードは、
- クランチ⇒支点L3, 腰椎屈曲運動, 腹直筋, 骨盤後傾, 伸展型腰痛に有効
- シットアップ⇒支点股関節, 股関節屈曲運動, 腸腰筋, 骨盤前傾, 屈曲型腰痛に有効
参考・引用
・筋トレまるわかり大辞典, トレーニングのホントを知りたい@谷本道哉
・筋肉の使い方・鍛え方パーフェクト事典@荒川裕志
・筋トレエクササイズ事典@有賀誠司
・トレーニングメソッド@石井直方
・ウエイトトレーニング実践編@山本義徳
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