栄養学 解剖生理学・運動学

【生理学】生体エネルギー論入門3~無酸素性代謝2 解糖系

2022年9月6日

生体内のおけるエネルギーの流れをあつかう学問である生体エネルギー論。エネルギー代謝やエネルギー供給機構・供給システム等とも呼ばれますが、なかなかわかりにくい学問です。

前回は無酸素性代謝のATP-CP系についてまとめました。今回は、もうひとつの無酸素性代謝である解糖系を整理しましょう。

生体エネルギー論の基礎に関する記事はこちらを参照してください。

ATP-CP系に関する記事はこちらを参照してください。

生体エネルギー論(bioenegetics)・エネルギー代謝論とは何か?

復習になりますが、

主に糖質、脂肪、タンパク質などの化学エネルギーを持つ主要(3大)栄養素から、生体内で利用可能なエネルギー形態(ATP:アデノシン三リン酸)への変換について学ぶのがエネルギー代謝論です。

人間(細胞)が運動、ひいては生命活動をするためにはエネルギーが必要です。ほぼすべての細胞において直接の動力源(エネルギー)はATPですが、体内にATPは少量しかないので、代謝して作り出すことになります。その基になるのが、糖質、脂肪、タンパク質等エネルギー基質です(3大栄養素は、直接のエネルギー源(筋肉を動かすもの)では無い)。

エネルギー代謝の分類

エネルギー代謝は、無酸素性と有酸素性に分けられ、さらに無酸素性は、ATP-CP系と解糖系に分類されます。

一方、有酸素系は、酸化系と電子伝達系に分けられます。

  1. 無酸素性エネルギー代謝
    1. ATP-CP系
    2. 解糖系
  2. 有酸素性エネルギー代謝
    1. 酸化系
    2. 電子伝達系

無酸素性エネルギー代謝は、無呼吸での運動を意味するのではなく、ATPを合成する際に酸素を必要としない代謝経路のことです。ある程度強度の高い運動時にしか発動しません。

今回は、無酸素性代謝の中の解糖系に焦点を充てたいと思います。


解糖系とは~糖を分解してエネルギー化する

解糖とは、文字通り糖質を分解することです。その分解過程で、ATPを再合成するのが解糖系です。

糖質は、エネルギー気質である三大栄養素(糖質・脂肪・タンパク質)の中で唯一無酸素過程で、ATPを産生することができます。言い換えれば、脂肪やタンパク質からATPを再合成するのは、解糖系ではありません(あたりまえか(^^♪。脂肪やタンパク質は、有酸素過程でしかATPは作成できません。

より具体的には、血中グルコースまたは筋グリコーゲンからピルビン酸までの過程が解糖系になります。ピルビン酸は、解糖系の最終形態(代謝物)ですが、非常に不安定でピルビン酸の状態を維持できません。酸素の有無で、乳酸やアセチルCoAにすぐに変換されるので、解糖系の最終代謝物ではありますが、実際には中間代謝物的な物質です。

無酸素過程の場合、ピルビン酸は、乳酸に変換されるので、解糖系のことは別名「乳酸系」とも言います。

解糖の過程で、4つのATPが産生されますが、2つのATP(筋グリコーゲンからは1つ)が消費されるので、実質2つ(または3つ)のATPが再合成されることになります。

ズバリ、覚えるのは赤字部分で大丈夫です(特に初期は)。

(血中)グルコース(または筋グリコーゲン)→グルコース-6-リン酸→フルクトース-6-リン酸→中略→ホスフォエノールピルビン酸→ピルビン酸⇔乳酸

ATPの産生数に関する記事はこちらを参照してください。

解糖系の特徴

解糖系は、ATP-CP系ほどではありませんが、無酸素過程で起こるATP再合成なので、強度は高いということになります。

  • 強度の高い運動で使用される(ATP-CP系ほどではない)
  • 短時間しか使用できない(ATP-CP系よりは長い)
  • 乳酸を産生する
  • 解糖過程では、3つまたは4つのATPを産生する

等の特徴を持ちます。

強度の高い運動(ATP-CP系ほどではない)

ダッシュやウエイトトレーニングの高負荷(3RM以下レベル)等の最大努力では無いですが、200m走レベルの運動強度になります。理論上は33秒で枯渇してしまうレベルの運動が解糖系です。

短時間しか使用できない(ATP-CP系よりは長い)

解糖系の運動は、ATP-CP系ほどではありませんが、運動強度は高いのでそうそう長い時間動くことはできません。理論上は33秒と言われていますが、それ以上の運動を続ける場合はどんどん強度が低くなってきます(有酸素過程)。

例えば、500m走を行うと、さすがに最初から全力ではないはずです。ある程度の強度から入り、スピードが落ち、ジョギングレベル、歩行、さらには止まる。といった現象は、最初はATP-CP(スタート時は使用される)が使われているが、解糖系からさらに有酸素レベルにまで強度が下がっていることになります。止まってもしばらくして動けるのは有酸素系代謝でATPが産生されるからです(詳細は、有酸素系代謝の記事で)。

マラソンは非常に過酷な競技ですが、言い換えれば、運動時間が長いからきついわけです。長く動けるということは、強度自体は低いことを示します。強度という観点から観ると、マラソンの強度は最も低いレベルということになります。

乳酸を産生する

繰り返しになりますが、解糖系の最終代謝物であるピルビン酸は、非常に不安定なのでその状態を維持できず、無酸素過程の場合、乳酸を産生します。

乳酸は、疲労物質と言われてきましたが、一時的なもので、有酸素過程では、エネルギーとして活用されます。

例えば、高中強度の運動(いわゆるミドルパワーの運動)は、継続すると一時的に動けなくなります。その理由の一つに乳酸の筋肉内大量産生があります(一時的に筋肉の収縮能力が下がります。乳酸が疲労物質と言われる所以?)。

しかし、時間がたてば、動けるようになるのは、乳酸をエネルギーとして再利用しているからです(グリコーゲンは、食事をして補充しないと回復しないです)。

乳酸は、一時的な疲労物質ではあっても、長期的にはATPを再合成することができるエネルギー基質でもあるわけです。

速い解糖?遅い解糖?なんのこっちゃ!!

NSCAでは、解糖系を「速い解糖」と「遅い解糖」に分けていますが、混乱のもとです。受験する人は、覚えなくてはなりませんが、合格後は忘れてもいい問題です。

「速い解糖」は、この記事のテーマである「(無酸素的)解糖系」のことで、グルコース(グリコーゲン)からピルビン酸、そして乳酸産生までの過程を指しています。

一方、「遅い解糖」は、ピルビン酸からアセチルCoAと経てクエン酸回路に入る過程のことを言っています。有酸素過程であるクエン酸回路が関わっているので「有酸素的解糖」とも記載しています。

そもそも、解糖は、グルコースまたはグリコーゲンからピルビン酸までの過程なので、速いも遅いもなく、全く同じ過程です。NSCAのテキストにもこのことは書いているので、この記載はやめた方がいいのではないかと個人的には強く思います。

実際、このせいで受験時は混乱していたものです😡

基本的には、「速い解糖」は「解糖系」で無酸素過程、

一方「遅い解糖」は「酸化系」で有酸素過程と押さえておいた方がいいと思います。

解糖系の運動

解糖系は強度は高いですが、APT-CP系(ハイパワー)ほどではないので、ミドルパワーの競技に使用されるとされています。解糖系は、一時乳酸を産生するので、心拍だけでなく、筋肉にも強ダメージが出るので、非常にきついわけです。

以下に、ミドルパワー(解糖系)メインの競技を記載します。

表. ミドルパワー競技の解糖系の比率(依存度)

競技スポーツ解糖系の関与率(%)
800m走65
200mスイム65
1500m走55
3000m走40
400mスイム40
スカッシュ30
5000m走20
1500mスイム20
野球(走塁・外野守備)20
サッカー(フィールドプレイヤー)20
テニス20
10000m走15

出典:ストレングス&コンディショニングⅠ(理論編)@NSCAジャパン(大修館)

上記の表は、競技スポーツの解糖系の割合の高いミドルパワー競技です。この数値は大変良い目安にはなりますが、すべてを鵜呑みにしてはなりません。実際、この割合を数値化することは難しく、最近のテキストでは、「高い」「中程度」「低い」等やや抽象的な記載をします。

陸上や水泳等の決まった距離をある程度同ペースで走る(泳ぐ)場合は、この比率は非常に参考になると思いますが、球技や格闘技ではその競技の一場面ということになります。

球技や格闘技では、高いATP-CP能力と高い有酸素能力を必要とする場合が多いです。

例えば、ボクシングは1ラウンド(R)3分で、レベルにより4~12Rで試合をすることになります。レベルが上がれば上がるほど試合時間は長くなり、より有酸素能力が重要になります。

1ラウンド(3分)だけで考えるとミドルパワーの関与が高くなるようにも思えます。ボクシングは、800m走と同レベルと言われることがありますが、あくまでも1ラウンドのみを比較した場合です。

1ラウンド内でも大半は有酸素運動であり、攻めているとき(30秒程度)などは解糖系の関与は高くなるのかもしれません。決めるラッシュ(10秒未満)はATP-CP系ですが、仕留め損ねると地獄、、、有酸素運動をすることにより回復を図るわけです。

戦略的に、各ラウンドのラスト30秒はペースを上げて無酸素運動を駆使し、ポイントを取り(うまくいけば仕留める)、その後の1分間のインターバル(有酸素)で回復を図るわけです。リカバリー能力は、重要なスタミナ(持久力)の要素です。

また、競技レベルやフィットネスになると話も変わります。800m走は、解糖系の関与が高い競技ですが、一般の方が800m走を行うと、すぐにペースは落ち、有酸素運動となっていることが多いのではないでしょうか。

私の場合は、800m走るのに5分程度かかるので、完全な有酸素運動です(^^♪

 

ただし、競技スポーツで高いレベルを目指すのであれば、この比率はいい目安になると思います。

解糖系の能力を向上するためのトレーニングに関する詳細は今回は割愛しますが、中高負荷短中時間でのトレーニングが必要となります。言い換えると、ATP-CP系ほどではないが、質の高いトレーニングということです。

解糖系のトレーニングは、乳酸が一時発生するので、体感的には最もきついものになります。いきなりこの手のトレーニングをメインにすると、きつすぎてモチベーションの低下や傷害リスクが高くなります。

まずは、低強度の有酸素レベルの運動をすることでフィットネスレベルを上げていきましょう。


まとめ

呼び名として、以下の2つを押さえておくといいと思います。

  • 解糖系
  • 乳酸系

その反応は、

  • 血中グルコース(筋グリコーゲン)→ピルビン酸→乳酸

特徴として

  • 高い強度の運動
  • 短い時間の運動
  • 乳酸を産生するきつい運動

例として

  • 800m走
  • 200mスイム
  • 格闘技
  • 球技

出典、引用、参考
・ストレングストレーニング&コンディショニング第4版@NSCA Japan(BookHouseHD)
・Essentials of Strength Training & Conditioning second edition@NSCA
・ストレングス&コンディショニングⅠ(理論編)@NSCA Japan(大修館)
・トレーニング指導者テキスト(理論編)@JATI(大修館)
・究極のトレーニング@石井直方(講談社)
・エネルギー代謝を活かしたスポーツトレーニング@八田秀雄(講談社)
・新版 乳酸を活かしたスポーツトレーニング@八田秀雄(講談社)

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