ウエイトリフティングは、スナッチおよびクリーン&ジャークの挙上重量を競う競技であり、
クイックリフトは、クリーンやスナッチを中心としたウエイトリフティング関連種目のトレーニングの総称です。
その効果からウエイトリフター以外にも多くの競技アスリートが実践しています。
クイックリフトの目的とエクササイズ
クイックリフトの目的は、簡単に言うと
- 一般的パワー向上
- 全身コーディネイト能力の向上
を筆頭に、種目によっては、
- 加速と減速の切り替えし動作の改善
- 神経系の改善(1, 2の理由の一つ)
などが期待できます。
クイックリフトのエクササイズには、競技にもなっているスナッチ、クリーン、ジャーク以外にも、一連の動作の一部を取ったプルやハイプル、そしてプレス動作も加えることができるでしょう。
今一度、クイックリフトの基本メカニズム・局面を検証したいと思います(クリーンを題材に)。
クイックリフトの局面
クイックリフトの局面は、
- ファーストプル
- (トランジション, スクープ)
- セカンドプル
- キャッチ
- (フィニッシュ)
の3~5局面となります。( )は局面と数えない人も多い。
ファーストプル
スタート(ここでは床)から膝までの局面を指し、デッドリフトの最初(床)から途中(膝)までの局面と同じとなります。クイックリフトやデッドリフトは、よく引くエクササイズと考えられていますが、あくまでも引くのは一部または最終局面で、初動作においては、地面をしっかり押すことが重要です。
クイックリフトを導入する場合は、その前に、まずはスクワット、そしてデッドリフトで押す感覚を養うことが必須となります。姿勢に関しては前提で話を進めます(当然、それができない場合は、RDLやベントオーバーロウ等が事前に必要となります)。
ここで疑問が、、、スタートが膝になるハングポジションからのクイックリフトはファーストプルが無いことになるのだろうか??(^^♪
トランジション・スクープ
膝を抜ける瞬間と言ったところでしょうか、ファーストプルとセカンドプルの境になる局面です。この局面は、クイックリフトでも重要なダブルニ―ベント(Double Knee Bend)が起こるところです。
ダブルニーベントの説明には、「バーが膝の上の通過したら、股関節を前方に出して膝関節をもう一度わずかに屈曲させて、大腿をバーに近づけ、膝をバーの下に入れる(NSCA)」とありますが、
これは意識しなくても、自然に起こる現象です(少なくとも私は意識していません)。下手に膝を屈曲させようとするとフォームを崩す原因にもなるのでお薦めはしません。股関節を前方に出すとは、股関節の伸展のことなので、ここを意識すればいいと思います。
ダブルニーベントによるストレッチショートニングサイクル(SSC)を利用して、パワーの向上を狙います。
ハングポジションから行うと、最初にこの局面になります。特に膝伸展(完全に伸展位では無いが)から開始するのであれば、ただのニーベント(Knee Bend)か??それでもSSCは利用できるはずです。
*ダブルニーベント、私は意識していない。
セカンドプル
スクープ後、股関節伸展、膝関節伸展、足関節底屈(フル・トリプルエクステンション*)からシュラッグ、腕の引付けの局面で、クイックリフトの肝となる最重要局面(パワーや力積が最大となる)です。
トリプルエクステンション+シュラッグまでを(クリーン・スナッチ)プルと言い、腕の動きをつけ引き上げるエクササイズまで行うとハイプル(アップ)となります。
厳密に言うと、クリーングリップならクリーン(ハイ)プル、スナッチグリップならスナッチ(ハイ)プルとなります。
トリプルエクステンションの瞬間は、バーが大腿部に当たることがあり、その勢いでバーが前方に弾けてしまうことがあります。この弾きが出てしまうと運動にロスが生じ、正しい方向にパワーが伝達しません。そのためにも上背部の引付けは重要で、これがクイックリフトは引くエクササイズと捉えられる要因の一つと考えられます。
そして、腕による引き上げ動作、これも引くパターンとなるが、腕力が強い人は要注意です。
セカンドプルのイメージは、Press(押)からPull(引)!
プル・ハイプルのメリット・デメリットに関する記事はこちらを参照して下さい。
キャッチ
トリプルエクステンションから一転、股関節屈曲、膝関節、足関節背屈(トリプルフレクション)し、バーベルをキャッチポジションに持ってきます(クリーンは鎖骨・フロントスクワットの状態、スナッチは頭上・オーバーヘッドスクワットの状態)。
この時にバーを動かすのではなく、バーを基準に身体を潜り込むことが重要です。ウエイトリフターはこの技術が傑出しているので、低い位置でキャッチすることができるわけです。
加速局面から減速局面に移るので、切り返しや急ストップが必要な球技や格闘技には必要な局面かもしれません。
キャッチ自体の難易度は高く、完成に至るまでに傷害を起こすリスクがあります(クリーンにおける手首の問題、腰痛のリスク。スナッチにおける肩の問題、、、)が、
反面、難しいがゆえに動作を習得した場合に起こる神経系の改善には期待が持てます。
フィニッシュ
キャッチと一体としている場合もありますが、キャッチポジションの股関節屈曲・膝関節伸展・足関節背屈から股関節と膝関節を伸展し、気をつけの姿勢になります。
まとめ
前にクリーンのキャッチの記事を書いた時にも触れましたが、ウエイトリフティング種目である、クリーン、スナッチ、ジャークはトレーニング効果は高いですが、反面、習得するのに時間がかかります。さらに傷害リスクも高いです。
ウエイトリフティング競技をするのであれば、フロアからスタートして、低い位置でキャッチすることが必要となるし、その技術を習得することが勝つための必須項目となります。
しかし、その他のアスリートであれば、必ずしもクリーン等を習得する必要は無く、必要に応じて選択すればよいわけです。
例えば、
- ウエイトトレーニングに費やせる時間が多く
- 筋力やパワーの関与が大きく
- さらに動作に緩急が起こるアメフトやラグビー選手であれば、
キャッチまで挑戦する意義はあるかもしれません。
逆に、
- ウエイトトレーニング頻度や時間が少ない
- 持久的要素がより重要な競技
- (トラック競技や水泳等)減速局面があまりない(極力防ぎたい)競技であれば、
むしろより安易で安全なプルやハイプルを徹底して行えばいいのではないでしょうか。
最小の時間で、最大の効果を出すためには、S&Cの力が必要となります。そしてS&Cにとっては腕の見せ所といったところでしょうか、私も含めて日々精進しなければならないですね!
引用・参考
・ストレングス&コンディショニング第4版@NSCA JAPAN
・トレーニング指導者テキスト実践編@JATI
・JATI EXPRESS VOL34, 35(クイックリフトでのフルエクステンション, クイックリフトでのダブルニーベント)