久々の記事レビューです。
特定非営利活動法人 日本トレーニング指導者協会機関誌「JATI EXPRESS」のコラムは優れたものが多く、その中でも特に参考にさせていただいている大山准教授(筑波大・JATI養成講習会解剖学講師)の「GTK現場で使える機能解剖学」は最高のコラムです。前に第1弾として再編集して書籍化しましたが、続編も期待しております。
今回は、Vol89. 第42回コラム「上肢の突きだし動作と背中の筋群」に関してのまとめと考察をしたいと思います。
上肢の突き出し動作の主役は、大胸筋ですが、投擲選手や相撲取り、打撃系格闘家(ボクサー、空手家等)は、背中の筋群も発達していることが少なくありません。
大胸筋の鍛える主要種目であるベンチプレスの背中の使い方について考えましょう。
ベンチプレスに関する記事はこちらを参照してください。
ベンチプレスの主働筋・協働筋
まずは復習から。
ベンチプレスの主働筋は「大胸筋」、協働筋は「三角筋前部」と「上腕三頭筋」というのが妥当でしょう。
実際には肩甲骨の動きも伴うので「小胸筋」や「前鋸筋」も協働筋といっていいと思います。
大胸筋は大きな筋肉なので、上部(鎖骨部)・中部(胸骨・胸肋部)・下部(腹部)に分けて考えます。それぞれの起始・停止、および機能(肩関節)を以下にまとめます。ただし、停止は共通で「上腕骨大結節陵」なので省きます。
- 上部:起始→鎖骨前面内側1/2, 機能→屈曲・水平屈曲・内旋・外転
- 中部:起始→第1~6肋軟骨前面, およびその胸骨部分, 機能→水平屈曲・内旋
- 下部:起始→腹直筋鞘上部前葉, 機能→伸展・水平屈曲・内旋・内転
なお、大胸筋中部の上方線維は「大胸筋上部→屈曲・外転」と下方線維は「大胸筋下部→伸展・内転」と同機能を持ちます(若干弱いですが)。
背中の筋群の分類
コラムでは、ベンチプレスの拮抗筋にあたる背中の筋群を以下のように分類しています。
- 胸椎と肋骨を繋ぐ筋群
- 胸郭と肩甲骨を繋ぐ筋群
- 胸郭と上腕骨を繋ぐ筋群
- 脊柱間を繋ぐ筋群
胸椎と肋骨を繋ぐ筋群
上後鋸筋(超マイナー筋なので、覚える必要は無いでしょう。機能解剖学テキストにも記載されていないです)
胸郭と肩甲骨を繋ぐ筋群
僧帽筋、菱形筋、前鋸筋、広背筋の一部(これらの筋群の機能解剖学に関しては近々まとめる予定です)
関連筋群に関する記事はこちらを参照してください。
胸郭と上腕骨を繋ぐ筋群
広背筋の大部分
脊柱間を繋ぐ筋群
脊柱起立筋、多裂筋等
背筋群の機能解剖学に関する記事はこちらを参照してください。
ベンチプレスにおける肩甲骨の固定の是非
- 肩甲骨の固定が成されていない場合
- 肩甲骨の固定が成されている場合
肩甲骨の固定が成されていない場合
解剖図出典:JATI EXPRESS Vol.89「GTK現場で使える機能解剖学」
背中の筋群が作用しないため、ベンチ台から肩甲骨が離れてしまい(肩甲骨外転)、結果肩が前方に付き出た状態(肩関節内旋)となります。
大胸筋や三角筋などが十分にストレッチされず、大きな張力(筋力)を発揮することができません。
また、肩関節自体が不安定な状態となり、それを安定させようと、肩のスタビリティ(stability)マッスル(棘上筋、棘下筋等)の負担が増えます。
結果、肩関節やスタビリティマッスルを痛める可能性が増えてしまいます。
初心者(特に我流の)によく見られるパターンです。
肩甲骨の固定が成されている場合
解剖図出典:JATI EXPRESS Vol.89「GTK現場で使える機能解剖学」
背中の筋群が作用すると、ベンチ台と肩甲骨が接地し、ちょうど両肩でベンチ台を挟む形(肩甲骨内転、肩関節外旋および水平伸展)となり(微小なブリッジ)、大胸筋や三角筋前部などが十分にストレッチされた状態から力を発揮するので、出力の増大が見込めます。
また、肩関節が安定した状態になるので、傷害リスクも低下します。
以上のことから、ベンチプレスにおけるセッティングは、肩甲骨内転および肩関節外旋位にすることが重要と考えられます。
ウエイトトレーニングにおける安全性の確保は最も重要なことです。ベンチプレスを行う際にも、正しいセッティングを習得することが最優先されるべきでしょう。
筋の長さと張力(筋出力)の関係に関する記事はこちらを参照してください。
まとめ
ベンチプレスの主働筋および協働筋は
- 大胸筋
- 三角筋前部
- 上腕三頭筋
- 前鋸筋
- 小胸筋
等で、拮抗筋(一部、協働筋でもある)である背中の筋群は
- 後鋸筋
- 僧帽筋
- 菱形筋
- 広背筋
- 脊柱起立筋群
- 多裂筋
等が考えられます。
大胸筋等主働筋・協働筋のみで行うベンチプレスでは、背中が緩み、肩が前方に位置し、安定しないばかりか、主働筋や協働筋が十分にストレッチされずに出力自体も低下することが考えられます。
一方、背中使用するベンチプレス(最小限のブリッジ使用)は、背中の筋群も十分に機能し、また主働筋・協働筋が十分にストレッチされた状態から動作に入るので、出力も向上する可能性があります。
ベンチプレスを行う場合には、大胸筋や三角筋前部だけに意識するのではなく、背中特に肩甲骨を安定させた状態で行うことが重要です。
・日本トレーニング指導者協会機関誌「JATI EXPRESS」Vol89. 第42回コラム「上肢の突きだし動作と背中の筋群」@大山圭吾
・筋トレエクササイズ事典@有賀誠司
・筋肉まるわかり大辞典1@石井直方
・筋トレまるわかり大辞典@谷本道哉
・筋肉のしくみ・はたらきパーフェクト事典@荒川裕志
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