ラットプルダウンは、上背部の代表的なエクササイズのひとつで、私自身も準コアエクササイズとしている重要な種目です。
ラットプルダウンは、手幅やグリップの向き等バリエーションが豊富で、そのバリエーションによる効果の違いを、おなじみのJATI EXPRESS Vol62「トレーニングの複眼的探求」のデータを基に紐解いていきたいと思います。
ラットプルダウンと準コアエクササイズの記事はこちらを参照してください。
ラットプルダウン(Lat Pull Down)の意味を理解する
ラットプルダウン(Lat Pull Down)のラット(Lat)は「Latissimus Dorsi Muscle」で広背筋を意味します。
広背筋を使用して、下に引くエクササイズということになるでしょうか。
名前からも、広背筋が主働筋であることがわかります(英単語の意味を知ると、エクササイズが理解しやすいですね)。
肩関節や肩甲骨を使用するので、広背筋以外で鍛えられる主な筋肉は、僧帽筋(特に中下部)、菱形筋、大円筋と言ったところです。
ラットプルダウンのメカニズムと関節運動
ラットプルダウンは、チンニングと共にPull系(上方から下方に引くタイプで、通常は肩関節内転運動)の代表的なエクササイズです。
Pull系の運動メカニズムは、
・肩関節内転
・肩甲骨下制、内転、下方回旋
・肘関節屈曲
使用される筋肉は、
・肩関節内転→広背筋、大円筋
・肩甲骨下制、内転、下方回旋→僧帽筋(特に下部)、菱形筋、広背筋(下角と脊柱は繋がっている)
・肘関節屈曲→上腕二頭筋等肘関節屈曲筋群(以降、上背部と捉えるとここは無視します)
ラットプルダウンは、チンニングと比べると筋力向上や神経系の活性等においては後れを取りますが、重量をコントロールできるので初心者にも扱いやすく、容易に広背筋をはじめとする上背部の筋群を効果的に鍛えてくれる優れた種目です。
チンニングは、自重程度を制御する筋力が必要となり、筋力が不足していると、肩甲骨をうまく動かすことができず、肩甲骨の柔軟性が乏しくなってしまう可能性もあります。そもそも自体重を引けないとトレーニングになりません。
一方、ラットプルダウンでは、肩甲骨の内転や下制を比較的容易に習得でき、上背部を効かせやすいという強みを持っています。
上背部のその他のエクササイズの記事はこちらを参照してください。
ラットプルダウンのグリップの違いによる筋電図活動比較
この研究では、ラットプルダウンのグリップの位置を変えた4種類のグリップと3種類の手幅および計7種類の筋電図活動の比較をしています。
グリップの位置(前腕・橈尺関節)による分類
グリップの違いによる内訳は、
- 手を合わせたパラレルグリップ(PG)
- 手幅の狭い回外(逆手)グリップ(SG)
- ノーマルな手幅および回内(順手)グリップフロントラットプルダウン(LPDF)
- ノーマルな手幅および回外(逆手)リアラットプルダウン(LPDR)
PG SG
LPDF LPDR
各グリップによる10RMの負荷は、以下のとおりで
PG | SG | LPDF | LPDR | |
6RM負荷(kg) | 63.0±7.5 | 64.0±8.9 | 64.0±9.9 | 59.0±8.7 |
フロント系のラットプルダウンの方が、リアよりも負荷を用いることができるようです。
広背筋
広背筋は、コンセントリック(引く)局面(CP)およびエクセントリック(戻す)局面(EP)ともに、ノーマルなフロントラットプルダウンが最も高く、エキセントリック局面では、パラレルグリップよりもリアラットプルダウンの方が高いというデータが出ています。
グリップがやや広めの方が、肘(屈曲)よりも肩を優先的(内転または伸展)に動かすことになると考えられます(PGは二頭筋の活動が大きい)。
大胸筋
大胸筋は、コンセントリック局面において「ノーマルのフロントラットプルダウンよりもパラレルグリップの方が高く」、これは肩の伸展運動によるものと考えられます。大胸筋の中下部の活動がより大きいと推測できます。
三角筋後部
三角筋後部は、コンセントリック局面において、パラレルグリップがその他の3種類の方法よりも高く、これも肩の伸展運動によるものと考えられます。
上腕三頭筋長頭
上腕三頭筋長頭は、コンセントリック局面においてノーマルなフロントラットプルダウンの活動が最も高いというデータ出ているようです。
フロントとリア(バック)では、肩関節内転の仕事(可動域)に差があり(フロント>リア)、パラレルや狭いグリップでの肩関節伸展よりも仕事や可動域が大きいのでしょう。
大円筋
大円筋は、コンセントリック局面およびエキセントリック局面において、有意差は無いがLPDF>LPDR>SG>PGの序列があるようです。
なお、この研究は、中級以上(1年以上のトレーニング経験者)のトレーニー成人(平均年齢27歳)男性10名の結果なので、すべての人に当てはまるとは限りません。いち参考データとして、トレーニングに活用してください。
手幅による分類
手幅は以下の3種類(狭い・普通・広い)です。
- ナローグリップ(Narrow Grip 肩幅グリップ)
- ミディアムグリップ(Medium Grip 肩幅の1.5倍のグリップ)
- ワイドグリップ(Wide Grip 肩幅の2.0倍のグリップ)
比較した筋肉は以下の表1. の4種類。コラムでは、各筋肉の挙上時(コンセントリック収縮)、下降時(エキセントリック)、その平均値のグラフを記載していますが、ここでは表1. に各筋肉の平均値の筋電図活動(MVIC)を記載します。
また、エキセントリック時の筋活動は、コンセントリック時よりもかなり低くなりますが(エネルギーはマイナスになるため)、各筋肉の活動比率は大きく変わらないので、平均値はかなり参考になります。
表1. ラットプルダウンの手幅の違いよる各筋肉の挙上および下降時の平均値(MVIC)
NG | MG | WG | |
6RM負荷(kg) | 80.0±7.1 | 80.3±7.2 | 77.3±6.3 |
広背筋 | 0.75 | 0.80 | 0.80 |
僧帽筋 | 0.80 | 0.80 | 0.75 |
上腕二頭筋 | 0.55 | 0.60 | 0.59 |
棘下筋 | 0.95 | 1.00 | 1.00 |
引用:JATI EXPRESS Vol62のコラム「トレーニングの複眼的探求」のグラフからの推測データ
*正確な数値は記載されてなく、同じ数値のものは一致しているわけではありません。差がかなり少ないものは、同値にしています。
重量においては、ナローとミディアムがワイドよりもやや高出力が出るようです。各筋肉の特徴としては、
- 広背筋:WG≒MG>NG
- 僧帽筋:NG≒MG>WG
- 上腕二頭筋:MG≧WG>NG
- 棘下筋:WG≒MG>NG
全体的には、MGが各筋肉において最大の活動をしているようです。
ワイドグリップでは、僧帽筋の数値が低いですが、肩甲骨の内転が弱いのでしょうか。
二頭筋は意外でした。ナローが一番高いと思っていましたが、理由付けが欲しいところです。
対象:中級以上(平均トレーニング歴6年)の成人(平均年齢24歳, 身長180cm, 体重81kg)トレーニー男性15名
手幅および回内/回外グリップ
- ナロー(肩幅)/回内(順手)グリップ
- ナロー(肩幅)/回外(逆手)グリップ
- ワイド(肩幅の1.5倍)/回内(順手)グリップ
- ワイド(肩幅の1.5倍)/回外(逆手)グリップ
広背筋、僧帽筋、上腕二頭筋の筋活動を比較すると
- 広背筋:グリップ幅に関わらず、回内(順手)>回外(逆手)
- 僧帽筋および二頭筋に有意差無し
全体的な筋活動は、ワイド回内グリップ(通常のラットプルダウン)の筋活動が最も高いというデータ出ています。
対象:成人男性(平均年齢23歳, 身長182cm, 体重86kg)男性12名(トレーニング歴未記載)
考察
ラットプルダウンの主働筋は、広背筋であることから、通常は「肩幅よりもやや広めのグリップのフロントラットプルダウン(いわゆるノーマルなフロントラットプルダウン)」が最も優れているということになるでしょう。
ただし、同じ刺激が続くと反応が出にくくなり、停滞期(プラトー)を迎えることもあります。今回挙げたエクササイズも含めて、バリエーションを織り交ぜることにより効果を上がることができるかもしれません。
ラットプルダウンはマシンエクササイズではあるものの、大筋群(広背筋や僧帽筋)を主働筋とした多関節エクササイズです。(アスリートや中級トレーニー以上では)チンニングほどの効果を挙げることは難しいですが、動作習得が容易であり、肩甲骨運動を習得する必要にある初心者にはむしろ最適かもしれません。
筋力の高い人でも、アクティベーションドリルやコレクティブエクササイズとしてウォームアップに充てたり、高負荷のトレーニング後のリセットのエクサレイズとしても利用できる万能性の高い種目です。是非、プログラミングの一つとして活用してください。
まとめ
広背筋:LPDFが最も高い(CP/EP)、LPDR>PG(EP)
大胸筋:PG>LPDF(CP)
三角筋後部:PGが最も高い(CP), PG>LPDF/LPDR
上腕三頭筋長頭:LPDFが最も高い(CP), LPDF>SG,PG(EP), LPDF>LPDR>PG>SG
大円筋:有意差無いが(CP/EP)、LPDFが最大で、PGが最小, LPDF>LPDR>SG>PG
上腕二頭筋:MG>NG(CP)
広背筋、棘下筋:WG>NG(EP)
全体的には、MGが各筋肉において最大の活動をする。
・JATI EXPRESS Vol62 トレーニングの複眼的探求@佐野村学
・筋トレエクササイズ事典@有賀誠司
・筋肉まるわかり大辞典1, トレーニングメソッド@石井直方
・筋トレまるわかり大辞典@谷本道哉
・筋トレ動き方・効かせ方パーフェクト事典@荒川裕志
・ウエイトトレーニング実践編@山本義徳
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