ハムストリングは有名な筋肉ではありますが、一つの筋肉ではなく、下記3つまたは4つの筋肉の総称です。
- 半膜様筋
- 半腱様筋
- 大腿二頭筋(長頭・短頭)
今回は、私の所有する5つのテキストのみになりますが、ハムストリングの起始・停止・機能をすべて確認・記載し、比較検討します。そしてエクササイズのヒントを付け加えたいと思います。
ハムストリングの名前の由来
ハムストリングの正式名称は、ハムストリング・マッスルズ(Hamstring Muscles)で、ここからも複数の筋肉の集まりだということがわかります。
少し前までは、ハムストリングス(略称?)と言っていましたが、最近は「ス」は省く傾向にあるようです。「ス」を入れたほうが、複数としてはわかりやすいと思うのですが、、、英語的にはNGなのでしょう。日本語的には有りだと思いますが、、、? 正直、個人的にはどちらでもいいと思っています。
さて、ハム(Ham)は、そのまま「食用の豚もも肉」のことで、ストリング(string)は紐(状)を意味します。これが転じて「腱」を表しているようです。
ハムストリングの分類
繰り返しになりますが、ハムストリングは一つの筋肉ではなく、下記3つまたは4つの筋肉の総称です。
- 半膜様筋
- 半腱様筋
- 大腿二頭筋(長頭・短頭)
半膜様筋と半腱様筋を合わせて「内側ハムストリング」、大腿二頭筋を「外側ハムストリング」とも言います。
ハムストリングの起始と停止、および機能(股関節・膝関節に作用するに関節筋)
復習となりますが、
起始は「筋肉の付着部のうち、近位側の付着部またはあまり動かない付着部」
停止は「筋肉の付着部のうち、遠位側の付着部または大きく可動する付着部」
と定義されます。とはいうものの、起始・停止というよりも筋肉の2つの付着点として押さえて問題ありません。
起始に関しては、大腿二頭筋短頭以外は共通であり、「坐骨結節」は絶対に覚えないといけない超重要ワードです。
停止は、脛骨または腓骨に付着しています。5つの書籍の起始・停止は下記にまとめました。
機能・作用に関しては、坐骨結節に起始し、脛骨・腓骨に停止するので、股関節および膝関節をまたぐ二関節筋になります。ハムストリングの場合は、後方を走行する筋肉なので、全体の機能としては股関節伸展と膝関節屈曲になります。
基本的に運動は、三面三軸(矢状面・前額面・水平面)で考える必要があり、ハムストリングのメインは矢状面の運動になります。
前額面に関しては、起始の坐骨結節に対し、停止の脛骨・腓骨は若干外側に位置するので、内転の機能を少し持っているかもしれません。下記にまとめた5つのテキストでは「機能解剖学的触診」のみに記載されているので、あまり重要ではないことがわかります(作用は小さい)。
水平面に関しては、これも坐骨結節に対し、停止(脛骨・腓骨)が内旋すると近づくのか、外旋すると近づくのか、実際に行ってみるとわかると思います。
三面三軸に関する記事はこちら
赤:半膜様筋, 青:半腱様筋, 黄:大腿二頭筋長頭, 黄緑:短頭
半膜様筋
内側ハムストリングは、2層になっていて、深層に位置するが半膜様筋です。扁平で(半腱様筋より)幅が広いため、半腱様筋と重なっていない部分は深層ながら触診できます。
荒川裕志先生の著書によると「股関節伸展よりも膝関節屈曲の貢献度が高い」ようです。遠位(膝周り)がより幅広いからでしょうか?
半腱様筋
内側ハムストリングの表層に位置する筋肉です。停止腱および筋線維が長く、スプリンターに発達が見られるとのことです(荒川)。
前十字靭帯の再腱手術に用いられる筋肉としても有名です。
大腿二頭筋
外側ハムストリングで、長頭と短頭にさらに分かれます。停止が共通で「腓骨頭」、起始は、長頭が「坐骨結節」、短頭は「大腿骨粗面外側唇」で、後面中部と押さえておきましょう。
長頭は「膝関節屈曲より股関節伸展の貢献度が高い」ようです(荒川)。これも近位の方が太いような気がします。
これらを踏まえて、各テキストの起始・停止・機能を確認してください。
身体運動の機能解剖 改訂版(2006)
半膜様筋
起始:坐骨結節
停止:脛骨内側顆後内側
機能:股関節伸展・膝関節屈曲・股関節内旋・膝関節内旋
半腱様筋
起始:坐骨結節
停止:脛骨粗面内側(鵞足)
機能:股関節伸展・膝関節屈曲・股関節内旋・膝関節内旋
大腿二頭筋(停止は共通)
起始:坐骨結節(長頭)・大腿骨粗線下1/2に位置する外側顆(短頭)
停止:脛骨外側顆・腓骨頭(共通)
機能:股関節伸展・膝関節屈曲・股関節外旋・膝関節外旋
私の持ってるのは、改訂版第10印刷で2006年6月30日発行です。最新は17印刷(2014年)らしいので、記載は変わっているかもしれません。
股関節の回旋に関しては、このテキストと肉単のみに記載があります。解剖学的にこの機能はあると思いますが、さほど大きくはないのでしょう。
筋肉のしくみ・はたらきパーフェクト事典(2013)
半膜様筋
起始:坐骨結節
停止:脛骨内側顆・顆間線・外側上顆・斜膝窩靭帯
機能:股関節伸展・膝関節屈曲・膝関節(下腿)内旋
半腱様筋
起始:坐骨結節内側面
停止:脛骨粗面内側(鵞足)
機能:股関節伸展・膝関節屈曲・膝関節(下腿)内旋
大腿二頭筋
起始:坐骨結節(長頭)・大腿骨粗面外側唇中部1/3および外側筋間中隔(短頭)
停止:腓骨頭(共通)
機能:股関節伸展・膝関節屈曲・膝関節(下腿)外旋
このテキストが最も学術的に記載されています。骨の専門用語は下記を参照してください。
*大腿骨粗線・大腿骨粗面外側唇:大腿骨後面を走る2本の粗線のうちの外側の線。
**顆間線:顆間窩上縁。大腿骨後面で外側顆と内側顆後縁を結ぶ線。
・骨と関節のしくみ・はたらきパーフェクト事典@岡田隆
機能解剖学的触診技術 下肢・体幹編(2007)
半膜様筋
起始:坐骨結節
停止:脛骨内側顆内側部から後部・斜膝窩靭帯・膝窩筋筋膜・膝後方関節包・後斜靭帯・内側半月板
機能:股関節伸展・膝関節屈曲・膝関節(下腿)内旋・股関節内転(補助)
半腱様筋
起始:坐骨結節
停止:脛骨粗面内側(鵞足の表記は無い)
機能:股関節伸展・膝関節屈曲・膝関節(下腿)内旋・股関節内転(補助)
大腿二頭筋
起始:坐骨結節(長頭)・大腿骨粗面外側唇(短頭)
停止:腓骨頭(共通)
機能:股関節伸展・膝関節屈曲・膝関節(下腿)外旋
このテキストも改訂版が出ているので、記載は若干変わっているかもしれません。
肉単(2004)
半膜様筋
起始:坐骨結節
停止:脛骨内側顆・大腿骨外側顆
機能:股関節伸展・膝関節屈曲・股関節内旋・膝関節内旋
半腱様筋
起始:坐骨結節
停止:脛骨上部内側面(鵞足)
機能:股関節伸展・膝関節屈曲・股関節内旋・膝関節内旋
大腿二頭筋
起始:坐骨結節(長頭)・大腿骨粗線外側唇(短頭)
停止:腓骨頭(共通)
機能:股関節伸展・膝関節屈曲・股関節外旋・膝関節外旋
アスリートのための解剖学(2020)
半膜様筋
起始:坐骨結節
停止:脛骨内側顆後面(鵞足)
機能:股関節伸展・膝関節屈曲・膝関節内旋
半腱様筋
起始:坐骨結節
停止:深鵞足
機能:股関節伸展・膝関節屈曲・膝関節内旋
大腿二頭筋
起始:坐骨結節(長頭)・大腿骨後面(短頭)
停止:腓骨頭(共通)
機能:股関節伸展・膝関節屈曲・膝関節外旋
骨盤傾斜(後傾)について
ハムストリングは、坐骨結節から脛骨または腓骨に走行する筋肉なので骨盤後傾の作用はあると考えられます。
ハムストリングのトレーニング
ハムストリングの主機能は、股関節伸展と膝関節屈曲です。この2つの機能にアプローチする必要があります。
膝関節屈曲では、レッグカールが有名です。股関節伸展では、ルーマニアンデッドリフトがベストの選択だと思います。
名バイプレイヤーであるハムストリング
ハムストリングは大筋群でありながら
- 大腿四頭筋の拮抗筋であること
- 股関節伸展における大殿筋の協働筋であること
等でメインよりもアシストで活躍する名脇役の筋肉かもしれません。
大腿四頭筋は、最強の出力(膝伸展)を誇る筋肉で下手をすると膝蓋骨が脱臼する等暴走する危険性もあります。その暴走を止めているのが、ハムストリングです。それでも大腿四頭筋には敵わないので、傷害予防のためにもしっかりとトレーニングする必要があります。
ハムストリングが単独で作用するのはレッグカールのような膝屈曲ですが、単独で動くことは稀です。実際に重要なのは股関節伸展であり、そのツートップの片翼を担うのがハムストリングです。しかし、大殿筋は単体の筋肉としては最強なので、ここでもアシストに徹する筋肉なのでしょう。
ただし、大殿筋は力は強いが鈍い筋肉なので、うまく使えない場合があります。臀部が機能しないと、ハムストリングに負担が掛かり過緊張を起こし、柔軟性が乏しくなることも知っておきましょう。
ルーマニアンデッドリフトとスクワットで、十分な筋力と柔軟性を構築する必要があるでしょう。
まとめ(起始・停止・機能)
最低限押さえるべきことは、
大腿二頭筋短頭以外の起始は共通で、坐骨結節は絶対に覚えましょう。
機能も「膝関節屈曲」「 股関節伸展」の2つは必須です。
それぞれの停止は、以下の3つは押えましょう。
半膜様筋
停止:脛骨内側顆後面
半腱様筋
停止:脛骨粗面内側(鵞足)
大腿二頭筋
停止:腓骨頭
ハムストリングのトレーニング(エクササイズ)
- 股関節伸展:ルーマニアンデッドリフト
- 膝関節屈曲:レッグカール
ハムストリングのストレッチ(別記事にて記載予定)
- 股関節伸展:SLR
- 膝関節屈曲:変形SLR
引用文献:上記で紹介したテキストすべて
・骨と関節のしくみ・はたらきパーフェクト事典@岡田隆
フィジックスコンディショニングジム
より詳細を知りたければフィジックスコンディショニングジムの超入門セミナーをご検討ください。