学術的な解剖学のテキストでも、起始や停止は必ずしも統一されているわけでは無く、勉強し始めの人の場合、混乱してしまうこともあるかもしれません。
その中でも、腹斜筋群はわかりにくい筋肉のひとつと言えるでしょう。今回は、私の所有する5つのテキストのみになりますが、外腹斜筋と内腹斜筋の起始・停止をすべて確認・記載し、実際、どの用語を覚えるべきかを考えたいと思います。
起始・停止の前に、内外腹斜筋の機能を復習したいと思います。
詳しくは、外腹斜筋と内腹斜筋の機能解剖学を参照してください。
外腹斜筋の機能
(下位)脊柱(屈曲および側屈は胸・腰椎、回旋は胸椎)
- 両側収縮⇒屈曲(腹直筋の協働筋)
- 片側収縮①⇒同側側屈(同側の腹筋群・背筋群と協働)
- 片側収縮②⇒対側回旋(右収縮⇒左回旋, 左収縮⇒右回旋)
内腹斜筋の機能
(下位)脊柱(屈曲および側屈は胸・腰椎、回旋は胸椎)
- 両側収縮⇒屈曲(外腹斜筋と共に腹直筋をアシストする)
- 片側収縮①⇒同側側屈(同側の腹筋群・背筋群と協働)
- 片側収縮②⇒同側回旋(右収縮⇒右回旋, 左収縮⇒左回旋)
腹斜筋群の起始と停止
私の持っている5つのテキストの記述をまとめました。
起始は「筋肉の付着部のうち、近位側の付着部またはあまり動かない付着部」
停止は「筋肉の付着部のうち、遠位側の付着部または大きく可動する付着部」
と定義され、
多くのテキストでは下記のように外腹斜筋の起始は「上部付着部」、停止は「下部付着部」、
一方、内腹斜筋の起始は「下部付着部」、停止は「上部付着部」として記載されていますが、逆に覚えても大丈夫です。起始・停止というよりも筋肉の2つの付着点として捉えた方がいいと思います。
身体運動の機能解剖 改訂版(2006)
外腹斜筋
起始:第5~12肋骨外側面(前鋸筋と接合)
停止:腸骨稜前半分、鼠経靭帯、腹直筋鞘(下前方)、恥骨陵
恥骨陵の記載はこのテキストと下記の「機能解剖学触診技術」のみですが、腹直筋鞘の最終が恥骨陵あたりなので、最終付着部として押さえておくといいと思います。
内腹斜筋
起始:鼠経靭帯上方1/2、腸骨稜前面2/3、腰筋膜
停止:第8~10肋軟骨、白線
私の持ってるのは、改訂版第10印刷で2006年6月30日発行です。最新は17印刷(2014年)らしいので、記載は変わっているかもしれません(8~10→10~12?)。
筋肉のしくみ・はたらきパーフェクト事典(2013)
外腹斜筋
起始:第5~12肋骨外側面
停止:腸骨稜外唇(第10~12肋骨から起始する下部線維)、腹直筋鞘前葉(第5~9肋骨から起始する上部線維)、鼠経靭帯
腸骨稜外唇が正式名称ですが、外側縁として押さえておきましょう。位置としては「腸骨稜前半分」あたりと捉えればいいと思います。
内腹斜筋
起始:鼠経靭帯、腸骨稜中間線、上前腸骨棘(ASIS)、胸腰筋膜深葉
停止:第10~12肋骨下縁、腹直筋鞘(中部)、精巣挙筋(下部)
腸骨稜中間線は、腸骨稜のトップ付近ですが、鼠経靭帯・ASISから中間線まで付着しているので、位置としては「腸骨稜前面2/3」あたりと捉えればいいと思います。
精巣挙筋は、このテキストのみ記載されていますが、実際に付着しているようです。かなり小さく、外科医でも見つけられないこともあるという記事を読みました(解剖学医と外科医では所見が違うようです)。覚えなくてもいいでしょう。
機能解剖学的触診技術 下肢・体幹編(2007)
外腹斜筋
起始:7~8個の筋尖をもって第5~12肋骨外側面
停止:腸骨稜外唇(最後部)、鼠経靭帯、恥骨陵、腹直筋鞘を介し白線
腹直筋鞘(前葉)と白線は繋がっています。
内腹斜筋
起始:鼠経靭帯、腸骨稜中間線、腰腱膜
停止:第11~12肋骨、腹直筋鞘前葉を介し白線
このテキストも改訂版が出ているので、第10~12肋骨に訂正されているかもしれません。
肉単(2004)
外腹斜筋
起始:第5~12肋骨外側面
停止:腸骨稜外唇、鼠経靭帯、腹直筋鞘前葉
内腹斜筋
起始:腸骨陵、腸骨筋膜、腰筋膜
停止:第10~12肋骨、腹直筋鞘、鼡径鎌
鼡径鎌は、恥骨陵と恥骨櫛に停止する腹横筋と内腹斜筋の共通の腱ですが、これも覚えなくてもいいと思います。わかりやすく「恥骨陵」でいいと思いますが、内腹斜筋に関しては「恥骨陵」の付着は考えなくてもいいと思います。
運動学第2版(2005)
外腹斜筋
起始:第6~12肋骨外側面
停止:恥骨結合前面、鼠経靭帯、白線
この本も改訂版が出ていますが、運動学のテキストなので、機能解剖学としては弱いかもしれません。外腹斜筋の起始は第6~12肋骨外側とありますが、誤植の可能性もあります(改定版では訂正されている可能性あり)。第5~12肋骨として覚えた方がいいでしょう。
「恥骨結合前面」は「恥骨陵」でいいと思います。
内腹斜筋
起始:鼠経靭帯外側、腸骨稜中間線、腰背筋膜深葉
停止:後部筋束は第11~12肋骨、腹直筋鞘外縁で腱膜となり、2枚に分かれて腹直筋鞘の前後両葉に移る
*両葉よりも前葉で覚えた方がいいでしょう。
アスリートのための解剖学(2020)
腹筋群の記載は無し、続編に期待します。
まとめ
上記、起始・停止を表にまとめました。
表1. 腹斜筋群のテキスト別、起始・停止
テキスト | 外腹斜筋 | 内腹斜筋 | ||
起始 | 停止 | 起始 | 停止 | |
身体運動の機能解剖 改訂版(2006) | 第5~12肋骨外側面 | 腸骨稜前半分 | 鼠経靭帯上方1/2 | 第8~10肋軟骨 |
鼠経靭帯 | 腸骨稜前面2/3 | 白線 | ||
腹直筋鞘(下前方) | 腰筋膜 | |||
恥骨陵 | ||||
筋肉のしくみ・はたらきパーフェクト事典(2013) | 第5~12肋骨外側面 | 腸骨稜外唇 | 鼠経靭帯 | 第10~12肋骨下縁 |
腹直筋鞘前葉 | 上前腸骨棘 | 腹直筋鞘(中部) | ||
鼠経靭帯 | 腸骨稜中間線 | 精巣挙筋(下部) | ||
胸腰筋膜深葉 | ||||
機能解剖学的触診技術 下肢・体幹編(2007) | 第5~12肋骨外側面 | 腸骨稜外唇 | 鼠経靭帯 | 第11~12肋骨 |
鼠経靭帯 | 腸骨稜中間線 | 腹直筋鞘を介し白線 | ||
恥骨陵 | 腰腱膜 | |||
腹直筋鞘を介し白線 | ||||
肉単(2004) | 第5~12肋骨外側面 | 腸骨稜外唇 | 腸骨陵 | 第10~12肋骨 |
鼠経靭帯 | 腸骨筋膜 | 腹直筋鞘 | ||
腹直筋鞘前葉 | 腰筋膜 | 鼡径鎌 | ||
運動学第2版(2005) | ・第6~12肋骨外側面 | 恥骨結合前面 | 鼠経靭帯外側 | 第11~12肋骨 |
鼠経靭帯 | 腸骨稜中間線 | 腹直筋鞘前後両葉 | ||
白線 | 腰背筋膜深葉 |
外腹斜筋は比較的まとまっていて
起始:第5~12肋骨外側面
停止:腸骨稜外唇、腹直筋鞘前葉(上部線維が停止)→最終的に恥骨陵、鼠経靭帯
*腹直筋鞘前葉と白線は繋がっているので、どちらも正解だと思います。覚えやすいのは「白線」ですが、「腹直筋鞘前葉」は理解していただきたいところです。
内腹斜筋は外腹斜筋に比べると、ばらつきはあるようですが、以下のようにまとめたいと思います。
起始:腸骨稜中間線(位置は腸骨稜前面2/3)、腰背筋膜、鼠経靭帯
停止:第10~12肋骨、腹直筋鞘前葉
白線は外腹斜筋同様、腹直筋鞘前葉として押さえておくといいと思います。
腰筋膜、腰背筋膜、腰背腱膜、胸腰筋膜は、同意語なので、「腰背筋膜」でいいと思います。
上記の太字の用語で押さえれば間違いは無いでしょう。
表2. まとめ(現状、覚えておくべき腹斜筋群の起始・停止)
外腹斜筋 | 内腹斜筋 | ||
起始 | 停止 | 起始 | 停止 |
第5~12肋骨外側面 | 腸骨稜外唇(外側縁) | 腸骨稜中間線 | 第10~12肋骨(下縁) |
鼠経靭帯 | 鼠経靭帯 | 腹直筋鞘前葉または白線 | |
腹直筋鞘前葉または白線 | 腰背筋膜 | ||
恥骨陵 |
引用文献:上記で紹介したテキストすべて
・イラストの出典@イラストACのとだ様
フィジックスコンディショニングジム
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