前回は脂質全体についてまとめました。今回は、脂質の中心、中性脂肪の構成成分のひとつである脂肪酸についての記事です。脂肪酸はエネルギー源にもなる主要栄養素ですが、なかなかわかりにくい栄養素です。その構造と分類を整理しましょう。
脂肪酸の構造~メチル基(CH3-)とカルボキシル基(-COOH)
出典:栄養の基本がわかる図解事典
メチル基(CH3-)とカルボキシル基(-COOH)を持つのが脂肪酸の基本構造です。メチル基で始まり、カルボキシル基で終わる。そして、その間は炭素(C)と水素(H)で繋いで、炭素数や炭素間の結合の仕方で、脂肪酸の種類は決まります(酸素は、カルボキシル基の2つのみ存在)。
脂肪酸の炭素は、合成も分解も2個ずつ変化するので必ず偶数個になります。β酸化とは、簡単に言うと脂肪酸の酸化(エネルギー化・燃焼)ですが、脂肪酸のカルボキシル基側から2個ずつ炭素を切り離す反応のことです。カルボキシル基と結合した炭素からα、β、γ、、、と順に名前を付けることからβ酸化と命名されています。
脂肪酸の分類~ポイントは、炭素数と二重結合の有無
脂肪酸の分類は以下の2つで考えます。
- 炭素鎖による分類
- 二重結合による分類
炭素鎖(数)による分類
まずは、炭素鎖の長さ(炭素数)による分類、その分類は以下の3通り、
- 短鎖脂肪酸:炭素鎖の炭素数が4または6の脂肪酸
- 中鎖脂肪酸:炭素鎖の炭素数が8または10の脂肪酸(8, 10, 12とするテキストもある)
- 長鎖脂肪酸:炭素鎖の炭素数が12以上の脂肪酸(14以上とするテキストもある)
一般に炭素数が多いほどより多くのATPを合成でき、融点が高くなります。カプリン酸(C10)以上の飽和脂肪酸は常温で固体です。言い換えればカプリル酸(C8)以下の飽和脂肪酸は常温で液体になります。不飽和脂肪酸は二重結合の数により、融点が下がるので、一概に炭素数で融点は決まりません。*現状、カプリン酸やカプリル酸は覚えなくても大丈夫です。
二重結合による分類(飽和・不飽和, 一価・多価, n-3・n-6・n-9系)
脂肪酸は、
- 飽和脂肪酸
- 不飽和脂肪酸
に分けられますが、この分類は炭素間の結合に二重結合が含まれるか含まれないかで決まります。含まれないのが飽和脂肪酸(すべて単結合)、含まれるのが不飽和脂肪酸です。
出典:栄養の基本がわかる図解事典
さらに不飽和脂肪酸は
- 一価不飽和脂肪酸
- 多価不飽和脂肪酸
に分けられます。
一価不飽和脂肪酸は構造上二重結合が一つで、多価不飽和脂肪酸は二つ以上のものを指します。
さらに最初の二重結合の位置によりn(ω)-3系やn(ω)-6系、n(ω)-9系という分類もあります(別途記載予定)。
階層をまとめると
- 飽和脂肪酸
- 不飽和脂肪酸
- 一価不飽和脂肪酸
- 多価不飽和脂肪酸
- n-3系
- n-6系
飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸の特徴~飽和は固体・不飽和は液体?
飽和脂肪酸は、通常固体で動物性のものが多く、牛や豚の体温は約39℃でその状態では脂肪酸は液体ですが、外気や人間の体温は約37℃なのでその状態では固体となります。
一方、不飽和脂肪酸は、二重結合をもつので融点が低く、魚や植物性のものが多いです。水温10~20℃で活動する魚の油は、人間の体温約37℃より低いので凝固することはほぼ有りません。
油脂、牛脂(ヘッタ)や豚脂(ラード)の脂は固体を表し、植物油や魚油の油は液体を表します。
脂肪酸の名前の付け方
n-3系のEPAやDHAから名前の由来を整理します。
EPAの正式名称は、Eicosa-Pentenoic Acid, DHAはDocosa-Hexaeneoic Acid。
Acidは酸を、-eneは二重結合を –oicはカルボン酸を意味します。
Eicosa-とDocosa-は数を表す接頭辞でそれぞれ20と22を意味し、脂肪酸の炭素数を表します。
次にPenta-とHexa-も数を表す接尾辞で、それぞれ5と6を意味し、脂肪酸の二重結合数を表します。
必須脂肪酸であるα-リノレン酸やアラキドン酸も正式(化学)名はそれぞれ、Octadeca-Trienoic Acid, Eicosa-Tetraenoic Acidで、Octadega-18, Tri-3, Tetra-4を表します。
参考資料として数を表す接頭語の一覧を示します。
1 | mono or hen | 11 | undeca | 21 | henicosa | 40 | tetraconta |
2 | di or do | 12 | dodeca | 22 | docosa | 50 | pentaconta |
3 | tri | 13 | trideca | 23 | tricosa | 60 | hexaconta |
4 | tetra | 14 | tetradeca | 24 | tetracosa | 70 | heptaconta |
5 | penta | 15 | pentadeca | 25 | pentacosa | 80 | octaconta |
6 | hexa | 16 | hexadeca | 26 | hexacosa | 90 | nonaconta |
7 | hepta | 17 | heptadeca | 27 | heptacosa | 100 | hecta |
8 | octa | 18 | octadeca | 28 | octacosa | 200 | dicta |
9 | nona | 19 | nonadeca | 29 | nonacosa | 500 | pentacta |
10 | deca | 20 | eicosa | 30 | triaconta | 1000 | kilia |
1~10と24までの偶数を押さえておけば問題無いと思います。20と22は絶対に覚えましょう。
参考・引用:
・基礎栄養学:田地陽一(羊土社)
・生化学(改訂2版):薗田勝(羊土社)
・生化学超入門:生田哲(日本実業出版社)
・栄養の基本がわかる事典@中村丁次(監修)
・アスリートのための最新栄養学(上)@山本義徳・イラストはイラストACのbararidaさん