前回、プログラムデザインにおいて最重要項目である「負荷設定」について整理しました。今回は、負荷設定も含めた「トレーニング目的別トレーニング条件」についてまとめたいと思います。
負荷と回数の関係
前回も、まとめましたが、負荷と回数には相関があり、高負荷では低回数、低負荷では高回数が成り立ちます。
負荷と回数の関係参考:NSCA・JATIテキスト
負荷(%1RM) 100 95 90 85 80 75 70 回数 1 2 4 6 8 10 12
(70%1RMは11回とするテキストもあるが誤差の範囲であるため、覚えやすい12回を使用)
なお、上記はコアエクササイズ、かつフレッシュな状態(メイン1セット目等)の場合に限ります。
目的別条件設定(負荷・回数・休息時間)
トレーニング目的を以下の5つに分類します(傷害予防や筋バランス等の目的もありますが、あくまでも強化をメインに考えます)。
- 筋持久力向上
- 筋肥大
- (最大)筋力向上
- (一般的)パワー向上
- 筋力維持
ガイドライン的にはなりますが、以下の設定を覚えておくと便利です。
目的別トレーニング条件
目的
筋持久力
(量)
筋肥大
(量)
筋力向上
(質)
パワー
(質)
筋力維持
負荷・重量
(RM)
12RM~
(15~30RM)
(6)8~12RM
1~6RM
力/速度(競技)特性による
4~10RM
8~12RM
負荷・重量
(%1RM)
~70%
(50~65%)
70~80(85)%
85~100%
75~90%
70~80%
反復回数
12回以上
(15~30回が妥当, All Out)
6(8)~12回
(All Out)
1~5回
(All Out 無)
1~5回
(All Out 無)
5~10回
(All Out 無)
休息時間
~60秒
30~90秒
(60秒が基準)
2~5分
(2分以上)
2~5分
(2分以上)
1~2分
(長め設定)
参考:自分でつくる筋力トレーニングプログラム@有賀誠司
筋持久力向上の設定は、低負荷高回数でAll Out
低負荷高回数が基本で、量のトレーニングとなります。持久力を求めるのでAll Outすることが重要です。12RM以上で効果が見込まれますが、多すぎると中枢神経疲労が勝ってしまうので、多くても30RM程度でまとめるといいでしょう。経験則ですが、15~20回でセットを組んでいる人が多いと思います。
筋持久力の低負荷トレーニングでは筋肥大は起こらないとされてきましたが、筋肥大効果もあります。物理的負荷は小さくなりますが、その分量(回数)が増え、代謝的な適応、すなわち、より大きなエネルギーを発揮するための筋肉をつくる適応(化学的ストレス)が起こると考えられています。
プロレスラーは毎日ヒンズースクワットを1,000回行うとのことです(現在のレスラーが行っているかは不明です)。聞いた話ではヒンズースクワット1,000回は約30分になるようです。プロレスラーが求める目的が筋力向上か筋持久力向上かはわかりませんが、実際にはそれらを越え有酸素運動になっていると思います(プロレスラーには有酸素能力も必要ですが)。
筋肥大は、中負荷All Out, 物理的および化学的ストレスに最も有効な負荷
ウエイトトレーニングの最大の目的である筋肥大(筋横断面積の増大)には、中負荷(70~80%1RM)でのAll Outが最適とされています。
筋持久力よりも高負荷になるので物理的負荷が大きくなり、さらに8~12回で追い込んでいるので化学的ストレス(代謝的適応)も大きくなり、肥大効果が最適になると考えられています。
ガイドラインでは、6~12RM(70~85%1RM)となっていますが、個人的には8~10RMが最適と考えています。6RMは85%1RMなので高負荷の範疇でもあり、経験の浅い人の場合、傷害リスクが高まる可能性があります。また12RMになると、特にスクワットの場合は心身ともにストレスが高くなり、継続が困難になるかもしれません。私の場合は、スクワット12RM All Outは恐ろしすぎて、実施できません(+_+)
経験のあるシニア世代では、6RMで肥大プログラムを組むことは有効だと思います。シニアには8~10RMでも心身ストレスは大きく、体調を崩すこともあるかもしれません(特にスクワットでは)。
筋力向上は、高負荷低回数, 休息時間も長く完全に回復することが重要
ウエイトトレーニングのもう一つの主要目的に「最大筋力向上」があります。最大筋力を決定する2大要素は
- 筋肥大
- 神経系の活性
になりますが、最大筋力向上のプログラムでは、神経系の活性を狙います。
基本的には高負荷低回数で各セットAll Outはしません。3RM以下であれば、ギリギリのラインになることもあると思いますが、5~6RMで追い込んでしまうと疲労が勝りセットごとに質(負荷)が下がってしまう可能性があります。結果、その重量(下がった重量)に適応して高重量が上がらなくなる可能性もあります。
高負荷低回数では、物理的負荷は大きいですが、化学的ストレスが小さいため、肥大効果は少ないと考えられています。
休息時間は、毎セットフレッシュな状態で行うことが望ましいので、長め(2分以上)になります。
パワー向上~アスリートには必須の能力、質の高い設定が必要となる
パワーは、筋力と速度の積、または仕事率(仕事を時間で除する)になりますが、ほとんどのアスリートにとっては最も重要な要素と考えられます。パワーには、筋力の要素が入っているので、まずは筋肥大して、さらに最大筋力を上げておく必要があります。
負荷設定は、競技特性や高負荷パワー(クイックリフト)なのか、低負荷パワー(プライオメトリクス)なのかでも変わってきますが、
- 単発パワー
- 反復パワー
で負荷を変えるのが一般的です。
- 単発パワーでは4~8RM(80~90%1RM)で1~2回
- 反復パワーでは6~10RM(75~85%1RM)で3~5回
で組むことが奨励されています。
休息時間は、筋力向上と同じように長めの設定になっています(2~5分)。
パワーに関しては、いろいろな考え方もあるので、別の機会にまとめたいと思います。個人的には、筋力向上の高負荷を用いれば、神経系の改善からパワーの向上も十分に効果があると思っています。
筋力維持は、レアな設定?
筋力維持には、筋肥大と同じような中負荷を用いますが、All Outはしないことが原則です。All Outしてしまうと疲労が勝り、筋出力も下がってしまう可能性があります。
ただ、筋力維持を目的としたトレーニングは、シーズン中のアスリートや追い込むことができない初級トレーニー向けなので、一般的なトレーニーでは組むことが少ないレアな設定となります。
休息時間に関しての考察
休息時間は、トレーニング効果を決定する「負荷」「回数」「頻度」と共に主要要素の一つになりますが、重要度は他の3要素に比べると、一段下がると思います。
筋持久力・筋肥大、量のトレーニングに関しては短めが基本ではあるが、、、
筋持久力および筋肥大の場合は短めで、不完全休息の中で追い込むことが重要になります。
筋持久力は、「如何に筋力を落とさずに力を発揮し続ける能力」なので、休息時間を短くしてトレーニングすることは理にかなっています。
また、休息時間を短くすることで、成長ホルモンの分泌量が増加し、肥大効果も高まると言われているので、筋肥大においても休息時間を短くすることは重要な要素となります。
しかし、落とし穴があります。筋肥大では、各セットをAll Out 、さらに休息時間を短くすることで、化学的ストレスは十分ですが、休息時間を短くすることで筋肉自体は回復はせず、セットをこなす毎に負荷や回数が激減する可能性があります。これは物理的負荷が減少することを意味するので、筋肥大にはマイナスになります。
成長ホルモンの分泌も大事ですが、トレーニング効果(特に筋肥大においては)には、物理的負荷がより重要になると思います。結果、十分な休息を取り、適切な負荷をかけAll Outすることが筋肥大には重要かと思います。
私の場合、上半身はともかく、スクワットにおいては、8RMトレーニングを90秒程度の休息では確実に回復せず、身体的ストレスが高くなりすぎるので、休息時間は3分以上取ります。仮に90秒程度の休息時間でトレーニングを継続した場合、心身ともにストレスが高すぎるので、スクワットはしなくなってしまう可能性が高いです。スクワットやデッドリフトを8~10RMで休息時間が60~90秒程度で継続してトレーニングができる人は、(超)一流なのでしょう。残念ながら私には無理です、、、(T_T)
筋力およびパワー向上、質のトレーニングには完全回復することが重要
筋力向上やパワー向上においては、2分以上の長めの休息時間を取ります。各セット完全に回復することでトレーニングの質を下げないことが重要になります。
指定回数を実施できなくとも質を下げないことで、重量に適応すると考えられます。
まとめ
条件設定の基本は以下の4(5)種類
- 筋持久力向上→低負荷高回数のAll Out, 量のトレーニング
- 筋肥大→中負荷高回数のAll Out, 量のトレーニング
- 筋力・パワー向上→高負荷低回数ながらAll Outはしない, 質のトレーニング
- 筋力維持→中負荷低回数, All Outはしない, 筋肉に最低限の刺激を入れるトレーニング
ですかね。
・ストレングストレーニング&コンディショニング第4版@NSCA Japan
・ストレングス&コンディショニングⅠ(理論編)@NSCA Japan
・トレーニングのヒント@石井直方
・自分でつくる筋力トレーニングプログラム@有賀誠司
・ウエイトトレーニング理論編@山本義徳・イラストは「イラストAC」