ウエイトトレーニングビッグ3の一角であり、パワーリフティングの一種目でもあるデッドリフト。脚の種目なのか、背中の種目なのかよく議論されるので考察したいと思います。
デッドリフトの主関節運動は股関節伸展と膝関節伸展
デッドリフトの主関節運動は、スクワットと同様に股関節伸展および膝関節伸展であり、主働筋も大腿四頭筋、大殿筋、ハムストリングということになります。
フォームや体形により、その比率にも違いが出ますが、基本的にはスクワットよりも股関節運動の比率が高く、股関節伸展においては、膝の運動が入る分(ハムストリングの関与が減る)、大殿筋が優性に働き、大殿筋がメインに鍛えられる種目です。
以上からデッドリフトは、脚、特に後面を鍛えるエクササイズといえます。石井直方教授も著書の中で、大殿筋とハムストリングを1種目で鍛えるのであれば(ヨーロピアン・ナロー)デッドリフトを推薦しています。
私を含むS&Cやパーソナルトレーナーの方々は、デッドリフトは脚および臀部のエクササイズと捉えていると思いますが、パワーリフターの方々は背中の種目と考えている人も少なくありません(むしろ、多数だと思います)。
背中の種目としてのデッドリフト
では、なぜ背中の種目と捉えられるのかを考えていきましょう。
デッドリフトの上半身および脊柱の関節運動は
- 脊柱伸展
- 肩関節伸展
- 肩甲骨内転
であり、これらの運動の主働筋は
- 広背筋
- 僧帽筋
- 脊柱起立筋群(背筋群)
となります。
脊柱に関して、基本は動かさず(固定して)アイソメトリック筋収縮または重量に耐えるエキセントリック筋収縮をしています。しかも通常デッドリフトは高重量を用いるので脊柱起立筋群を中心に背筋群(多裂筋等ローカルマッスルも含む)を間違いなく使用しています。
高重量を用いることで腰椎が屈曲してしまい、腰椎(脊柱)に伸展運動自体(コンセントリック筋収縮)も起こっている可能性も高いです(意図的に腰痛屈曲をするリフターの方も多いですが、腰痛のリスクは避けられないので一般的にはお薦めできないフォームです)。
肩関節はさほど大きな動きはしませんが、バーを背中に対して引き付けることになるので、伸展運動は起こります。結果、広背筋や大円筋は収縮しています。
ただし、ロウイング(ベントオーバーロウ・ワンハンドロウ・シーテッドロウ等)ほどの可動域は無いので効果も落ちると思います。
同時に、肩甲骨内転もするので、僧帽筋や菱形筋、さらには広背筋も収縮してるはずです。デッドリフトのフィニッシュで肩甲骨を寄せる(肩を返す)動作は重要で、私はこの動作を強調するので、スクワットでは出ない筋肉痛が出ます(実際には、この肩甲骨内転運動ではなく、戻す際のエキセントリック筋収縮だと思いますが)。
あまり知られていませんが、広背筋は肩甲骨下角と胸椎棘突起を繋いでいるので肩甲骨を動かす機能もあります。また胸椎と腰椎、仙骨を繋いでいるので脊柱の伸展にも関わっています。
結論~メインは大殿筋・ハムストリング、背中にも効果はある
トレーニング効果(特に筋肥大効果)を上げる2大要素は、
- 筋の走行通りの最大収縮(可動域を大きくとる)
- 重力に対し、垂直に負荷をかけること
股関節(大殿筋・ハム)に関しては、1と2の両方を網羅しているのでトレーニング効果は抜群に高いと思います。
背中(肩関節および肩甲骨)に関しては、1と2共に最大限の効果は出せないが、有効と言っていいと思います。肩甲骨は(フォームによっては)最大限に近い可動域が見込めますが、肩関節伸展は確実に90°未満なのでロウイングより劣るはずです。
結果、上級者になればなるほどデッドリフトのみで背中を鍛えきるのは難しいと言わざる負えません。
初心者であれば、脚と背中を同時に鍛える種目として使用してもいいかもしれません(時間短縮というメリットもある)。
ただし、デッドリフトのフォームを習得する前にスクワットとロウイングを習得する必要がありますかね。
デッドリフトの主働筋・協働筋
デッドリフトの主働筋と協働筋をまとめます。
- 大殿筋
- ハムストリング
- 大腿四頭筋
- 広背筋
- 僧帽筋
大殿筋
- 起始:腸骨稜後方, 仙骨後方, 尾骨
- 停止:大転子, 腸脛靭帯後上部
- 機能:股関節伸展・外旋, 外転(上部), 内転(下部)
大腿四頭筋
- 起始:大腿骨前面(広筋群), 下前腸骨棘/AIIS(直筋)
- 停止:脛骨粗面
- 機能:膝関節伸展, 股関節屈曲(直筋のみ)
ハムストリング
- 起始:坐骨結節(大腿二頭筋短頭のみ大腿骨中部後面)
- 停止:脛骨内側顆後面・鵞足・腓骨頭・脛骨外側顆
- 機能:膝関節屈曲, 股関節伸展
広背筋
- 起始:T7(6)~L5の棘突起, 仙骨, 下角, 第10~12肋骨
- 上腕骨小結節陵
- 機能:肩関節内転・伸展・内旋・水平伸展, (下位)脊柱伸展, 肩甲骨下制・内転・下方回旋
僧帽筋
- 起始:後頭隆起・項靭帯, T1~T12棘突起
- 停止:鎖骨外側, 肩峰, 肩甲棘内側
- 機能:肩甲骨挙上(上部)・内転・下制(下部)・上方回旋, 頸椎・胸椎伸展
脊柱起立筋群
- 起始:脊椎横突起・棘突起, 肋骨後面
- 停止:脊椎横突起・棘突起等
- 機能:脊柱伸展、同側側屈 *回旋の機能を持つ筋肉もある。
デッドリフトのデメリットは腰痛リスク
(スクワットよりも)腰椎から重量までのモーメントアームが長いため、そして(スクワットよりも)高重量を使用することも多いので、腰痛のリスクは避けられません(正しいフォームであっても)。
最近では、そのリスクを軽減するためにヘックスバーを用いてデッドリフトをする人も増えています。
また、デッドリフトはスクワットと同じ筋群(ここでは大殿筋)を使用するので、ハムストリングによりフォーカスしたルーマニアンデッドリフトを用いるのは悪い選択ではありません。モーメントアームはデッドリフトと同等になりますが、使用重量が軽くなるので腰痛のリスクも軽減します。
まとめ
デッドリフトの主関節運動は、股関節・膝関節であるため、その主働筋は大殿筋・ハムストリング・大腿四頭筋となります。ゆえにデッドリフトは脚部・臀部のエクササイズとするのが妥当です。
しかし、上半身の肩関節や肩甲骨運動、さらに脊柱伸展運動も起こるため、背中の筋群(広背筋・僧帽筋・脊柱起立筋群)にも効果を期待できます。しかし、最大とまではいかないでしょう。
背中に強化には、ロウイングやプル系にエクササイズをメインにプログラミングすることをお勧めします。
・トレーニングメソッド@石井直方
・筋トレまるわかり辞典@谷本道哉
・身体運動の機能解剖@フロイド
・筋肉のしくみ・はたらきパーフェクト事典@岡田隆
・ウエイトトレーニング実践編@山本義徳