機能解剖学を勉強するにあたって、前腕の筋群はかなりマイナーです。実際、あまり勉強しない人も多くいると思います。
確かに、小さな筋肉が多く集まっており、初期段階でそのすべての起始・停止・機能を暗記する必要は無いでしょう。
しかし、ポイントを押さえておくと、前腕筋群は比較的理解しやすいかもしれません。今回はそのあたりをまとめたいと思います。
前腕筋群の特徴
前腕の筋群は、肘関節および(または)手関節(手首)の運動に関係する筋群です(一部、指関節にも関わります)。
前腕の位置関係と運動を理解する
前腕に関係する4つの位置(方向)は、
- 撓側(外側)
- 尺側(内側)
- 掌側(前方面)
- 背側(後方面)
赤が位置・方向、黄が関節運動
そして運動は
- 撓屈(外転または右側屈)
- 尺屈(内転または左側屈)
- 掌屈(屈曲)
- 背屈(伸展)
となります。
上記の撓屈・尺屈・掌屈・背屈は手関節の専門用語を、肘関節および指関節は基本用語の「外転・内転・側屈・屈曲・伸展」を使います。
起始・停止における覚えるべきランドマーク
前腕の筋群は非常に多く、すべて筋肉、さらにはその起始・停止・機能を覚えるのは中々困難ではありますが、起始に関しては以下の2つに多くの筋群が付着しています。
- 上腕骨内側上顆
- 上腕骨外側上顆
そして全てではないですが、内側上顆を起始とする筋肉は尺側(内側)に多く、外側上顆を起始とする筋肉は撓側(外側)に多いわけです。
前腕の筋群の起始と停止および機能
起始・停止の復習です。
起始は「筋肉の付着部のうち、近位側の付着部またはあまり動かない付着部」
停止は「筋肉の付着部のうち、遠位側の付着部または大きく可動する付着部」
と定義されますが、逆に覚えても問題はなく(前腕の筋群に関してはそれは無いですね)、起始・停止というよりも筋肉の2つの付着点として捉えた方がいいと思います。
以下、関連している筋肉が多いで、私の所有しているメイン2つのテキストの記述から覚え方を考えていきましょう。
身体運動の機能解剖 改訂版(2006)・筋肉のしくみ・はたらきパーフェクト事典(2013)における起始・停止・機能のまとめ
以下は、前腕の主要筋肉(15種類)です。
- 撓側手根屈筋
- 尺側手根屈筋
- 尺側手根伸筋
- 短撓側手根伸筋
- 長撓側手根伸筋
- 長掌筋
- 浅指屈筋
- 深指屈筋
- 長母指屈筋
- 長母指伸筋
- 短母指伸筋
- 長母指外転筋
- 総指伸筋
- 示指伸筋
- 小指伸筋
一見、ややこしいですが、比較的法則性?が高いので、覚えやすいかもしれません。
機能解剖学的な考え方
- 撓側がついている筋肉の起始は「上腕骨外側上顆」が多い。
- 尺側がついている筋肉の起始は「上腕骨内側上顆」が多い。
- 伸筋の起始は「上腕骨外側上顆」が多い。
- 屈筋の起始は「上腕骨内側上顆」が多い。
- 手根がついている筋肉の停止は「手根骨」である。
- 屈筋は、掌側(前方面)に走行している筋肉である。
- 伸筋は、背側(後方面)に走行している筋肉である。
- 母指は、母指1本に関与する筋肉である。
- 総指・浅指・深指は、2~5指に関与する筋肉である。
- 示指は第2指を、小指は第5指を表す用語である。
・手の骨と関節に関する記事はこちら
・指(趾)の名称に関する記事はこちら
まとめ
上記、起始・停止・機能を表にまとめました。
表1. 前腕筋群の起始・停止・機能
身体運動の機能解剖学 | 筋肉のしくみ・はたらきパーフェクト事典 | |||||
筋肉名 | 起始 | 停止 | 機能 | 起始 | 停止 | 機能 |
撓側手根屈筋 | 内側上顆 | 第2/3中手骨底 | 掌屈・撓屈 | 内側上顆 | 第2中手骨底 | 掌屈・撓屈 |
肘屈曲 | 橈尺関節回内 | |||||
肘屈曲 | ||||||
尺側手根屈筋 | 内側上顆 | 第5中手骨底 | 掌屈・尺屈 | 内側上顆 | 第5中手骨底 | 掌屈・尺屈 |
尺骨近位後面 | 豆状骨・有鈎骨 | 肘頭・後縁1/3 | 豆状骨 | |||
尺側手根伸筋 | 外側上顆 | 第5中手骨底 | 背屈・尺屈 | 外側上顆 | 第5中手骨底 | 背屈・尺屈 |
尺側後縁中央 | 尺側斜線・後縁 | |||||
短撓側手根伸筋 | 外側上顆 | 第3中手骨底 | 背屈・撓屈 | 外側上顆 | 第3中手骨底 | 背屈・撓屈 |
肘伸展(補助)* | RCL/橈骨輪状L | 肘屈曲(正しい) | ||||
長撓側手根伸筋 | 外側上顆 | 第2中手骨底 | 背屈・撓屈 | 外側上顆 | 第2中手骨底 | 背屈・撓屈 |
外側上顆稜遠位1/3 | 肘伸展(補助)* | 外側上顆稜 | 肘屈曲(正しい) | |||
長掌筋 | 内側上顆 | 第2~5中手骨手掌腱膜 | 掌屈 | 内側上顆 | 手掌腱膜 | 掌屈 |
肘屈曲(わずか) | (第2~5中手骨) | |||||
浅指屈筋 | 内側上顆 | 4本の中節骨両側前方 | 4指(MP・PIP)屈曲 | 内側上顆 | 4本の中節骨底前縁 | 4指(MP・PIP)屈曲 |
尺骨粗面 | 掌屈 | 尺骨粗面内側・UCL | 掌屈 | |||
橈骨上前部 | 肘屈曲(補助) | 橈骨上方前面 | ||||
深指屈筋 | 尺骨近位3/4前内側 | 4本の末節骨底 | 4指(MP・PIP・DIP)屈曲 | 尺骨前面 | 4本の末節骨底 | 4指(MP・PIP・DIP)屈曲 |
掌屈 | 前腕骨間膜前面 | 掌屈 | ||||
長母指屈筋 | 橈骨中央 | 母指末節骨底 | 母指(CM・MP・IP)屈曲 | 橈骨前面 | 母指末節骨底 | 母指(MP・IP)屈曲 |
尺骨鈎状突起より遠位前内側縁 | 掌屈 | 前腕骨間膜前面 | 撓屈 | |||
長母指伸筋 | 尺骨中央外後面 | 母指末節骨底 | 母指伸展 | 尺骨中部背側面 | 母指末節骨底 | 母指(MP・IP)伸展 |
背屈 | 前腕骨間膜背側面 | 母指(CM)撓側外転 | ||||
短母指伸筋 | 橈骨遠位後面 | 母指基節骨底 | 母指伸展 | 橈骨中部後面 | 母指基節骨底 | 母指(MP)伸展 |
背屈(補助) | 前腕骨間膜背側面 | 母指(CM)撓側外転 | ||||
長母指外転筋 | 橈骨/尺骨中部後面 | 第1中手骨近位骨底(背側) | 母指CM関節外転 | 橈骨/尺骨中部背側面 | 第1中手骨底外側 | 母指(CM)外転 |
撓屈 | 前腕骨間膜背側面 | 撓屈 | ||||
総指伸筋 | 外側上顆 | 2~5指中節骨/末節骨骨底 | 4指(MP・PIP・DIP)伸展 | 外側上顆 | 2~5指中節骨/末節骨骨底 | 4指(MP・PIP・DIP)伸展 |
背屈 | RCL/輪状L | 背屈 | ||||
肘伸展(補助) | ||||||
示指伸筋 | 尺骨中央遠位後面 | 示指中節骨/末節骨底 | 示指MP/PIP/DIP伸展 | 尺骨遠位背側面 | 示指指背腱膜 | 示指(MP/PIP/DIP)伸展 |
背屈補助 | 前腕骨間膜背側面 | 背屈 | ||||
小指伸筋 | 外側上顆 | 小指中節骨/末節骨底 | 小指MP/PIP/DIP伸展 | 外側上顆 | 小指指背腱膜 | 小指(MP/PIP/DIP)伸展 |
背屈(補助) | 尺屈 |
引用:身体運動の機能解剖・筋肉のしくみ・はたらきパーフェクト事典
- 手根骨の停止について:基本、屈筋は掌側、伸筋は背側である。
- 内(外)側上顆を起始に持つ筋群には、肘関節の運動はあるはずであるが、非常に小さな力のため、表記をしないテキストもあるようである。
- 撓側手根伸筋群の肘関節運動は、屈曲が正しいようである(身体運動の機能解剖の記載は間違っている)。
引用文献
・身体運動の機能解剖@Thompson/Floyd
・筋肉のしくみ・はたらきパーフェクト事典@荒川裕志
・骨と関節のしくみ・はたらきパーフェクト事典@岡田隆
・機能解剖学的触診技術(上肢)@林典雄
・肉単@原島広至
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