前回は、ベンチプレスとプッシュアップを比較しましたが、今回は下半身にフォーカスして、「King of Exercise」スクワットと「King of Machine Exercise」レッグプレスの効果の違いを考えましょう。JATI EXPRESS Vol83「トレーニングの複眼的探求」のデータを基に紐解いていきたいと思います。
・スクワットに関する記事はこちら
スクワットとレッグプレスの関節運動と主働筋・協働筋
スクワットとレッグプレスの関節運動は基本的には同じと捉えていいと思います。よって主働筋や協働筋にも大きな差はありません。以下に関節運動を記します(コンセントリック筋収縮のみ)。
股関節:伸展
膝関節:伸展
足関節:底屈(股関節・膝関節より動きは小さい)
脊柱:伸展(固定・アイソメトリック筋収縮)
主働筋:大腿四頭筋・大殿筋
協働筋:ハムストリング・下腿三頭筋等
両者の違いは、
スクワット:立位・クローズドキネティックチェーンエクササイズ(CKC)・背もたれ無し・フリーウエイト種目
レッグプレス:半臥位・セミクローズドキネティックチェーンエクササイズ(SCKC)・背もたれ有り・マシン種目
スクワットとレッグプレス時の筋電図活動の違い
この研究では、スクワットおよびレッグプレスをそれぞれ2種類の足幅(ナロー/ワイドスタンス)、そしてレッグプレスに関しては、足の位置をプレートの上部に位置するハイポイジョン(High Position)および下部に位置するローポジション(Low Position)の計6種類の筋電図活動の比較をしています。
なお、ナロースタンスは腰幅(上前腸骨棘/ASIS間)、ワイドスタンスはナローの2倍としています。
ナロウスタンスワイドスタンス
膝関節の可動域は完全伸展位(0°)から90~100°で、使用重量は各12RM(70%1RM)です。
- ナロウスタンススクワット
- ワイドスタンススクワット
- ナロウスタンスローポジションレッグプレス
- ワイドスタンスローポジションレッグプレス
- ナロウスタンスハイポジションレッグプレス
- ワイドスタンスハイポジションレッグプレス
データー一覧
表1. スクワットとレッグプレス(ハイポジションおよびローポジション)の2つの足幅(ナローおよびワイドスタンス)による伸展局面の%MVIC
筋肉 | スタンス | スクワット | ハイポジションレッグプレス | ローポジションレッグプレス |
大腿直筋 | ナロウ | 36±14 | 25±11 | 29±11 |
ワイド | 33±12 | 21±8 | 26±11 | |
外側広筋 | ナロウ | 47±6 | 38±7 | 39±7 |
ワイド | 47±7 | 37±6 | 37±8 | |
内側広筋 | ナロウ | 50±9 | 42±8 | 41±7 |
ワイド | 49±9 | 40±7 | 39±7 | |
外側ハム | ナロウ | 26±11 | 10±2 | 8±2 |
ワイド | 28±13 | 12±2 | 10±3 | |
内側ハム | ナロウ | 22±9 | 10±3 | 8±2 |
ワイド | 25±10 | 13±3 | 10±3 |
出典:JATI EXPRESS Vol83のコラム「トレーニングの複眼的探求」P43より一部抜粋
なお、データは膝関節伸展局面(95~5°)の%MVIC(最大随意等尺性収縮時の筋電図活動に対する割合)です。テキストには屈曲局面のデータもありますが、わかりやすくするために伸展データのみを記載しました。
結果
- 全ての筋肉において、レッグプレスよりもスクワットの活動が大きい。
- スクワット、レッグプレス共にスタンスによる活動量に差は無い。
- レッグプレスの足の位置による活動量にも差は無い。
- 最も活動しているのは、内側広筋である(外側広筋と差は少ないが)。
- スクワットのHQ比→0.7(ハムストリングは四頭筋の約70%活動)
- レッグプレスのHQ比→0.35(ハムストリングは四頭筋の約35%活動)
考察
- 大腿部全体(前面および後面)を鍛えるのは、スクワットが最適。
- スタンスによる筋活動量に差は無いが、さらにワイドスタンスになると可動域を損なってしまう。今研究のワイドスタンスくらいまでが最適と思われる。
- レッグプレスは、足の位置に関わらず四頭筋を鍛えるのに優れている。殿筋のデータは無いが、経験(足の位置をハイポジションにしても殿筋には入り難い)から言っても四頭筋のトレーニングと言えそうである。
- HQ比から、スクワットの方がハムストリングの関与も高く(レッグプレスの約2倍)、膝の安定性にも優れる(レッグプレスのHQ比は低いので、四頭筋がより優位に働き、脛骨前方移動の可能性がある→膝の不安定性・傷害)
まとめ
大腿部を鍛えるためには、筋電図から見てもスクワットの方が優れていると考えられます。また協働筋であるハムストリングの関与がレッグプレスの2倍であることから、膝の安定性を向上させることで膝の傷害の予防にもなるようです。
主働筋および協働筋の四頭筋、大殿筋、ハムストリングはもちろんのこと、運動単位(神経系)の改善という点においても優れているスクワットは「King of Exercise」と呼ぶにふさわしいエクササイズです。
一方、トレーニング効果においては、後塵を拝しますが、高負荷をより安全に扱え、心身ストレスも非常に軽く、スクワットに近い効果を出せるレッグプレスも捨てがたいエクササイズです。スクワットのダメージが大きすぎて、アスリートに最も重要な練習に支障をきたす場合は、レッグプレスの選択は間違いではありません。
なお、この研究は、トレーニング経験が10年以上の成人男性ウエイトリフター10名の結果なので、すべての人に当てはまるとは限りません。いち参考データとして、トレーニングに活用してください。
また、この研究では、股関節伸展の主働筋である大殿筋のデータが無いのは残念ですね!
次回は、体幹部の筋群の比較をし、この記事と共に総まとめとします。
ビッグ3に関する記事はこちら
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・JATI EXPRESS Vol83 トレーニングの複眼的探求@佐野村学
・筋トレエクササイズ事典@有賀誠司
・筋肉まるわかり大辞典1・2@石井直方
・筋トレまるわかり大辞典@谷本道哉
・筋トレ動き方・効かせ方パーフェクト事典@荒川裕志