ウエイトトレーニング ボクシング

【考察】ボクサーにウエイトトレーニングは必要か?

2021年4月1日

いまやアスリートがウエイトトレーニングをすることは当たり前になりつつありますが、それでもウエイトトレーニングに否定的な意見も未だにみられます。

今回は、元プロボクサーでもあり、現川崎新田ボクシングジムのストレングス&コンディショニングコーチでもある私、長澤誠浩が「ボクサーにウエイトトレーニングが必要か?」というテーマで思いの丈を述べたいと思います。これは私の主観も大いに入るので、異論反論はあると思うし、認めます(^^♪

結論から申し上げると、「必要であるが、必須ではない」ということになります。

以下にその理由を挙げていきたいと思います。

なお、ここで言うボクサーは「ボクシングジムに所属し、プロおよびプロを目指す選手たち」です。学生を筆頭とする「アマチュアボクサー」はまた違った見解になると思います。

プロボクサーのトレーニングの優先順序、最優先は練習!

本来、「練習とトレーニング」は違いますが、ここでは同じカテゴリーとします。そうすると優先順序は以下の通りとします。

  1. 練習(ジムワーク)
  2. ロードワーク(全身持久力トレーニング)
  3. ウエイトトレーニング

本来、練習の目的は、反復することで基礎や応用の技術を高めることだと思います(大前提は試合に勝つこと)。

一方、トレーニングは「練習」以上の負荷をかけることで(練習ではかけられない負荷を意図的に掛ける)、求める体力を高めるのが目的です(全身持久力ならラントレ、筋力向上ならウエイトトレーニング等)。

練習(ジムワーク)

当たり前のことですが、ボクサーに限らずアスリートに最も重要なのは、「練習」です。ボクシングの練習(ジムワーク)は、基本的には試合と同じ形式(1ラウンド3分:レスト1分)で行います。サンドバッグ打ちなど持久要素の高い練習も含まれるので、技術だけでなく、ボクサーに必要な総合的な体力を底上げすることができます。

若年層や初心者は、ジムワークだけでも十分効果があります。

ロードワーク

ボクシングの練習は、朝と夜の二部練で、朝にロードワーク、夜にジムワークを行うのが基本です。

上記にも述べましたが、トレーニングまたはコンディショニングの目的は、練習以上の負荷をかけることで目的となる体力(筋力、持久力等)の向上を求めることです。

コンディショニングの定義・目的に関する詳細記事はこちら

ボクシングにおいて、最も重要な体力要素は「全身持久力」となります(ストレングス系の方からすると異論もあると思いますが、私自身の選手およびS&C経験を踏まえても全身持久力が最重要なのは揺るぎません)。

体力・フィットネスに関する記事はこちら

ボクシングにおいての全身持久力は、ジムワークおよびロードワークで向上させます。よってロードワークは、トレーニングというよりも練習の位置づけになります(それだけ重要ということにもなります)。

ロードワークの目的は、ジムワークでは得られない心肺への過負荷です。そして、ボクサーに適している全身持久力トレーニングはやはりランでしょう(ロードワークですから当たり前ですね)。

ロードワークに関する記事はこちら

経験的に(すべて統計を取っているわけではないので)、結果を出しているプロボクサーは、得てして持久力が高く、私自身も、時を戻して現役ボクサーになり、一つだけ体力要素をもらえるのであれば間違いなく「スタミナ・全身持久力」を選びます。

ロードワークが必要なのは、あくまでもプロレベル、一般の練習生の方には必要ないでしょう。ジムワークだけで十分に全身持久力を高めることができます。

ウエイトトレーニング

先に結論として述べましたが、ウエイトトレーニングは「できる限り導入した方が良いが、必須ではない」と考えています。まずは、上記の練習(ジムワーク)と全身持久力のトレーニング(ロードワーク)を優先してくださいということです。

ウエイトトレーニングを含めたトレーニングおよびコンディショニングの目的は、

  1. 競技パフォーマンス(一般的体力)の向上
  2. 傷害予防

で、さらにウエイトトレーニングの目的は、ジムワークでは得られない筋肉への負荷をかけることで、筋肥大、最大筋力向上、さらには一般的パワー(筋力 x 速度)向上を狙います。

上記に、ウエイトトレーニング以上にラントレーニングは大事と述べましたが、ラントレ(全身持久力トレーニング)の消費は、尋常では無く、あるレベルを超えるとカタボリック(筋肉の分解)が起こり、長期的に捉えると「筋力低下、ひいてはパフォーマンスの低下」を生じます。

また、ランにおける関節(足や膝、腰・脊柱等)の負担は大きいので、関節消耗を低減するためにも筋力強化は必須となります。

さらにウエイトトレーニングの利点は、可動域を大きく取れることです。ジムワークやロードワークは、特に下半身(股関節や膝関節)の可動域は小さく、結果、可動域が狭くなります(柔軟性が乏しくなる)。可動域を考慮すると、ウエイト(自重)トレーニングは必須かもしれません。

実際、プロボクサーはハムストリングが硬い選手が多いです(骨盤後傾に向かう可能性あり)。またパンチの特性上肩の内旋が多く、連動して肩甲骨の外転、脊柱後弯になり姿勢が悪い選手は少なくありません。

結果、肩痛や腰痛を発症する可能性は否めません。

ウエイトトレーニング導入の条件

上記にウエイトトレーニングはできる限り取り入れた方が良いと書きましたが、具体的にはどのような選手が導入すべきなのでしょう。私が考える「ウエイトトレーニングを導入すべきボクサーは」、以下の2つをクリアしている選手です。

  1. 長期的にボクサーとして活動すること
  2. 減量がきつくないこと


ボクサーとしての活動が年単位(できれば数年以上)で見込めること

まず一つ目の条件は、「長期的にプロボクサーとして活動をする選手です」。世界チャンピオンや日本チャンピオンを目指すレベルであれば確実に導入すべきです。

ボクシングを含むプロ格闘技は、ある意味特殊な活動形態で、学生のように3~4年スパンで、またはプロ球技(野球やサッカー)のように1シーズン(以上)で計画を練るわけではありません(世界レベルは年スパンで考えると思いますが)。

人によっては、プロテスト合格やプロで1戦のみ試合をするといった選手も少なくありません。そういった選手は、効果が出るのに時間のかかるウエイトトレーニングに時間を費やすよりも、ジムワークに力を入れた方が、結果は出やすいと思います。

プロになるだけならロードワークをしなくても2R(3分 x 2)動ける持久力を付ければ問題ないでしょう。この程度の持久力ならジムワークのみでもクリアできます。ジムワークのみで基礎技術と持久力を向上させるのが早道です。

プロで1戦、当然負けてもいいと思う人は少ないでしょうから、勝利が欲しいなら、ロードワークは入れた方が確実性は上がります。プロの4回戦(C級・最低ランク)であれば、持久力がソコソコあれば勝利は近づきます。目先の1勝ならば、ウエイトよりもラントレです。

減量がきつくないこと

もう一つは、やはり減量です。

ウエイトトレーニングの最大の目的は、「筋肥大」および「最大筋力向上」です。過負荷を掛けたウエイトトレーニングは、少なからず「筋量」を増やします。

元々減量が厳しい選手が、ウエイトトレーニングを導入し、筋量を増やし、試合までの減量で筋肉を削る。というのは理にかなっていないように思えます。

ボクシングを含む格闘技の勝敗を分ける最大の要素は「体重・階級」です。骨格や体格から適正な階級を見つけることは、最も重要です。ウエイトトレーニングを導入するのであれば、階級を上げることも考慮に入れるべきだと思います。

漫画「はじめの一歩」の宮田一郎はウエイトトレーニングをするべきでは無いと思いますが(フェザー級は適正階級では無い)、一歩は導入してもいいでしょう(適正階級、むしろ余裕がある)。

非力と言われる宮田一郎が、階級を上げライト級以上で世界を目指すのであれば、ウエイトは必須となるでしょう。

具体的には何をするか?

実際、ウエイトトレーニングを導入した場合、私なら試合までの期間を考慮して、クラシックではありますが、ビッグ3やクイックリフトを中心に「筋肥大→筋力向上→一般的パワー向上」でピリオダイズ(計画)します。

減量がきつい選手に関しては、自重や軽量(20kgバーのみ等)で、関節可動域を最優先にして、関節の正しい動かし方を中心に指導することになると思います。

この記事の続き(ボクサーのウエイトトレーニング)はこちらを参照してください。

個人的には、格闘技に関していえば、ボクシングやキックボクシングの打撃系格闘技よりも、総合、レスリング、柔道などの組み系の割合が多くなるほど、筋力の重要性は増してくるので、よりウエイトトレーニングを導入した方がいいと考えます(リオ五輪での柔道の躍進は記憶に新しいですね)。

写真は、川崎新田ボクシングジムに所属していた元日本・東洋王者の古橋選手・黒田選手・西田選手です。

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