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【生理学】呼吸器系の基礎②~EPOC(運動後過剰酸素消費)の考え方

2021年2月2日

呼吸器やエネルギー代謝を語るうえで、EPOCの概念は不可欠です。EPOCを理解すれば、アスリート指導においてはウォーミングアップやクーリングダウンの、またフィットネスにおいてはダイエット指導に有効となるはずです。

呼吸器の構成に関する記事はこちら

呼吸器の専門用語

EPOC(Excess Post-exercise Oxygen Consumption)を理解するには、以下の専門用語は押さえておかなければなりません。

  • 酸素消費量(oxygen consumption)
  • 酸素摂取量(oxygen intake)
  • 酸素需要量(oxygen demand)
  • 酸素借(oxygen deficit)
  • 定常状態(steady state)

酸素消費量(oxygen consumption)

身体で消費される酸素量で、言い換えると内呼吸で取り入れた酸素量のことです。

酸素摂取量(oxygen intake)

外気から肺胞で摂取した酸素量で、言い換えると外呼吸で取り入れた酸素量のことです。酸素消費量と酸素摂取量は一致します。

酸素需要量(oxygen demand)

ある運動で必要となる酸素量で、運動強度が高いほど多くなります。

酸素借(oxygen deficit)

運動開始時の酸素不足で、酸素摂取量よりも酸素需要量が少ない状態(酸素摂取量<酸素需要量)です。

定常状態(steady state)

酸素摂取量が酸素需要量に追いついた(一致した)状態(酸素需要量 = 酸素摂取量)で、強度にもよりますが、通常3~5分程度かかります。トレーニングを積んだアスリートは、この時間が短縮します。

これもトレーニング効果で、ウォーミングアップの一つの目的となります。試合の序盤から質の高い動き(息苦しさが出ないように)をするために、アスリートは入念にアップをします(強度が高すぎると、疲労が勝りパフォーマンス低下の可能性があります)。*試合帯同するトレーナーの腕の見せ所でもある局面です。

話が反れましたが、この定常状態は「セカンドウインド」とも言います。よくランナーズハイとも言われますが、厳密には同じものではありません。ランナーズハイは、肉体的苦痛後に起こるホルモン分泌(βエンドルフィン等)です。この経験をすることはトップアスリートレベルと思っていましたが、ある程度の運動を継続すると分泌するようです。

wikipediaには「東京学芸大学名誉教授・医学博士宮崎義憲の行った実験では、日頃あまり運動をしない男性8人に有酸素運動の自転車こぎを30分間させた結果、運動中や運動後にα波は13.5%、β-エンドルフィンが75%増加したことが確認された。」とあります。

私は経験したことが無いかな、、、、フルマラソンやハーフマラソンを走っているときの序盤~中盤に調子がいいなと感じるのがそれなのかもしれません。後半は基本地獄ですが(+_+)

EPOC(運動後過剰酸素消費)の概念

EPOCは、Excess Post-exercise Oxygen Consumptionの頭文字を取ったもので、日本語で「運動後過剰酸素消費」といいます。一般的には「アフターバーン」とも言うようですが、ピンときません。EPOCを一言で表すと「運動後の酸素補填」となりますか、、、、、(これも不足分と完全には一致しないので正確な言葉では無いかもそれません)?

EPOCを図を使って説明します。横軸は時間(min)、縦軸は酸素摂取量(ml/kg/min)です。

有酸素運動のEPOC

出典:NSCA決定版ストレングストレーニング&コンディショニング第4版@NSCA JAPAN

上図は、有酸素運動(この図では15分間の運動)におけるEPOCの概念図です。

黄緑線は「酸素需要量のVO2or強度」、縦軸のトップが「最大酸素摂取量」です。黄色の縦線は「定常状態」になるまでの時間(図だと7分くらいに見えます)です。

運動開始から定常状態になるまでの数分間は、酸素借(赤)でここまではそれなりに苦しいと感じているはずです(エネルギーは無酸素下で合成しています)。黄色線で定常状態となり呼吸が少し楽になります。この運動ではこれ以上強度を上げていないので運動終了(15分)まではさほどきついと感じてはいないはずです。

運動終了後、呼吸はしばらく激しく、これは序盤の酸素負債の回収にあたる現象です。少し前までは「酸素借=酸素負債」と考えられていましたが、必ずしもこの酸素量は一致するものでは無く、酸素負債という言葉は使用せずに「EPOC(青)」と言うようになったようです(酸素借≠EPOC, 酸素借≒EPOC)。

運動強度によって、EPOCは変わりますが、NSCAのテキストには「EPOCの最大値は、運動強度(50~60%VO2maxより高い)および継続時間(40分より長い)の両方が高いときにみられる」とあります(細かい数値はわかり次第追加します)。

無酸素運動のEPOC

出典:NSCA決定版ストレングストレーニング&コンディショニング第4版@NSCA JAPAN

EPOCは有酸素運動の概念と捉われがちですが、無酸素運動でも起こります。上図は無酸素運動(この図では1分間の運動)におけるEPOCの概念図です。

黄緑線は「最大酸素摂取量・V2max」、縦軸のトップが「酸素需要量」です。無酸素運動は、VO2max以上の強度なので「定常状態」は存在しません。言い換えると運動中(図では1分)、酸素摂取量は酸素需要量に追いつきません。なので運動中は常にきついわけです。

運動開始から運動終了まで、定常状態になることは無く、運動中はずっと酸素借(赤)です。運動終了後にすぐに回収に入りますが、有酸素運動以上に呼吸は荒く、場合によっては立っていられません。

400m走(約1分)やスクワットの10RM辺りを想像するといいかもしれません。「EPOC(青)」も相当高いと考えられます(NSCAのテキストにも、最大酸素摂取量を超える運動を行うことで、総仕事量が少ないときに最大のEPOCをもたらすことがあるとあります)。

EPOCの効果・メリット

EPOCは、運動後におこる酸素摂取なので、当然消費しています。このことから高い脂肪燃焼効果が考えられます。

EPOCを変化させる要因

最後にEPOCを変化させる要因をまとめます(NSCA第4版)

  • 血液および筋における酸素の再補充
  • ATPおよびCPの再合成
  • 体温、循環、換気の上昇
  • トリグリセリド-脂肪酸サイクルの速度増加
  • タンパク質の代謝回転の増加
  • 回復中のエネルギーの効率性の変化

用語のまとめ(和名・英名)

専門用語のまとめです。必要に応じて追加しています。

酸素消費量oxygen consumption
酸素摂取量oxygen intake
酸素需要量oxygen demand
酸素借oxygen dificit
定常状態steady state
EPOCExcess Post-exercise Oxygen Consumption

引用・参考
・ストレングストレーニング&コンディショニング第4版@NSCA Japan
・Essentials of Strength Training & Conditioning second edition@NSCA
・ストレングス&コンディショニングⅠ(理論編)@NSCA Japan
・解剖生理学@志村ら

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